■【エロ小説・SS】サイコパスな俺と、3人のヤンデレ妹たちの物語はもちろんハッピーエンド・・・・・・・・・・・・・・・
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    ヤンデレ達との甘い甘い生活・・・
    濡れ場(返り血的な)あり。かなりグロ注意・・・
    内容的には超面白い名作なので是非!
    ■所要時間:55分 ■本文:46レス

    【エロ小説・SS】サイコパスな俺と、3人のヤンデレ妹たちの物語はもちろんハッピーエンド・・・・・・・・・・・・・・・

    【エロ小説・SS】サイコパスな俺と、3人のヤンデレ妹たちの物語はもちろんハッピーエンド・・・・・・・・・・・・・・・


    「【エロ小説・SS】サイコパスな俺と、3人のヤンデレ妹たちの物語はもちろんハッピーエンド・・・・・・・・・・・・・・・」開始

    ヤンデレの小説を書こう!より

    21: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 00:13:11 ID:W56qDLe3
    誰も書かないので駄文で埋める。ただしヤンデレと同時にただのサイ娘である。実験。

     須藤幹也は狂気倶楽部の一員である。
     しかし、彼は狂気倶楽部には一体何人いるのか、そもそも倶楽部が何をするところなのか。
     そんなことすら知らない。知ろうとも思わなかった。
     彼にとって狂気倶楽部は暇つぶしでしかなかった。
     無論、長い長い人生が終わるまでの暇つぶしである。

    「雨に――唄えば――」

     古い歌を歌いながら幹也は階段を降りる。街の片隅、路地にひっそりと立つ喫茶店「グリム」の地下へ。
     グリムの地下は基本的に開放されているが、誰もそこに行こうともしない。
     そもそもグリムはごくきわまった趣味を持った少年少女しか集まらず、その地下にある「書架」ともなると
     狂気倶楽部の面々しか立ち入らないのだった。

    「雨に――唄えば――」

     同じフレーズを延延と唄いながら幹也は降りる。古い板の階段が、一歩足を下ろすたびにかつんと鳴る。
     地下へと降りる階段は、きっちり13段だ。
     毎回幹也は数えながら降り、そのたびに幹也は一度としてみたことのないマスターのことを思う。
     彼は――あるいは彼女は――一体何を考えてこんな店を作ったのだろう?
     病んだ少年少女、ゴスロリ少女や歪んだ少年ばかりが集う喫茶店を。
     考えても仕方のないことだ、と幹也は割り切る。特定の何かに、彼はこだわりをもたない。
     だまって、十三段の階段を折り終え、

    「あ。お兄ちゃんだ――っ!」

     地下に辿りついた幹也に、聞き慣れた、舌足らずの声が届いた。 
     人に甘えるような、生まれたばかりの子猫のような声。
     幹也はあえて声にこたえず、奥へと進み、一番奥の椅子に座ってから声の主を見た。

    22: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 00:25:14 ID:W56qDLe3
     声の主は、声の通りに少女だった。十と七を迎えたばかりの幹也よりも、ずっと年下に見える、幼い声と同様に幼い容姿。
     長い栗色の髪は膨らみ、彼女が動くたびにふわりと揺れた。
     裾にフリルのついた白いワンピースを着て、靴下も靴も何も履かずに裸足だった。
     栄養が足りず、細くなった手と足がむきだしになって見える。
     両の手首には、プレゼント用の包帯が巻かれている。
     幹也は知っている。その下に、醜い傷跡が残されていることを。
     椅子の隣、本棚から適当に本を選びつつ答える。

    「ヤマネ。僕は君の兄じゃないと、何度言えばいいんだ?」
    「えぇ――? で、でもぉ、」

     ヤマネと呼ばれた少女は首をかしげ、戸惑うように言葉を切った。
     幹也は構わず本を抜き出す。背にはこう書かれている。
    ――『黄金に沈むお茶会』。
     かつて狂気倶楽部にいた人間が書いた本の一冊である。

    「お兄ちゃんはー、兄ちゃんだよね?」
    「お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど僕は君のお兄ちゃんじゃないからお兄ちゃんじゃないんだよ」
    「でもお兄ちゃんはヤマネのお兄ちゃんよね?」
    「あーもうそれでいいから静かにしてろよ」

     呆れたように幹也が言うと、ヤマネは満面の笑みを浮かべた。大きな瞳がにっこりと閉じられる。
     幹也の『それでいい』だけに反応したのだろう。
     ゆったりとした安楽椅子に座り、本を広げる幹也。
     その幹也へと、裸足のままヤマネは近寄り、

    「えへっ」

     頬に手を当てて笑ってから、ごそごそと、幹也の膝の上に上りこんだ。
     小柄な身体がすっぽりと幹也の胸に収まる。椅子の上でだっこをするのは、なれないと難しい。
     そして、幹也はもうそれに慣れていた。
     制服のすぐ向こうに、ヤマネの体温を感じた。

    23: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 00:34:30 ID:W56qDLe3
     細い足が、安楽椅子の下を蹴るようにぶらぶらと揺れる。
     そのたびにヤマネの小さな身体が揺れ、幹也の身体に振動を伝えた。
     すぐ真下にある髪から、シャンプーと、少女の臭いが混ざった、甘くただれた香りがした。

    「お兄ちゃんっ、今日は何のご本?」
    「『黄金に沈むお茶会』。いつもの変なご本だよ。『ご』をつけるほど大層なものじゃないけどね」
    「読んで読んで読んでっ!」

     膝の上でばたばたと手を動かしながら嬉しそうにヤマネが言う。声は大きく、普通の喫茶店なら叱られるだろう。
     が、そう広くもない、椅子が12個と長い机が一個だけ置かれ、壁は全て本棚で埋め尽くされた図書室に人はいない。
     いつもの面子はおらず、今は、ヤマネと幹也しかいなかった。
     本を遮るように動く細く白い腕と、その手に巻かれた紅いリボンを見ながら、幹也は言う。

    「読んでやるから、手は動かさないでくれ。読めない」
    「はーい!」

     がっくんがっくんと頷き、ヤマネは手をばんざいし、幹也の首に絡めた。
     そのままくるりと半身をひねり、猫のように全身で幹也に抱きつく。
     とても、三つ下の少女とは思えなかったが、幹也は特に気にしない。これも『いつも』だ。
     首筋に触れる髪を感じながら、幹也は表紙をめくった。
     声に出して、幹也は読み始める。
     最初のページには、たった一行だけ、こう書かれていた。


    『むかしむかし。でも、むかしっていつだろう? 少なくとも、明日よりは近いのよね 』


    24: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 00:40:19 ID:W56qDLe3
    『 むかしむかし。でも、むかしっていつだろう? 少なくとも、明日よりは近いのよね。
      明日は永遠に来ないけど、少なくともむかしは記憶にはあるもの。
      あら、でもそうね。永遠に手が届かないという意味では同じかしら。
      わからないわね。
      でもきっと、この本を誰かが読むときは、私は「むかし」になってるのよ。
      できれば、そのときに私が生きていないことを祈るわ。だってそうでしょう?
      無事に死ねたのなら、それが一番の幸せですもの!

      それで、むかし。手が届かない昔ね。
      一人の女の子と、独りの女の子がいたの。
      二人の女の子は決して出会うことはなかったわ。だって、お茶会には椅子が一つしかあいてなかったから。
      一人の女の子は、お茶会で、楽しくお喋り。
      独りの女の子は、お茶会で、独り寂しくお茶を飲む。
      そのうちに、独りの女の子は考えたの。
      一人の女の子がいなくなれば、自分は一人になれるんじゃないかって。
      というわけで、思い立ったら吉日よね。独りの女の子は、紅茶のポットに毒を入れたわ。
      黄金色に輝く毒を。とってもおいしそうな毒を。
      次の日のお茶会で、一人の女の子は、そのおいしそうな毒を飲んだわ。
      でも残念なことに、お茶会のメンバーは、あんまりにもおいしそうだったから、その毒を全員飲んじゃったの。
      そうして、独りの女の子は、一人の女の子になれたけど。
      やっぱり、お茶会では、独りだったの。
      独りきりでお茶会をしている女の子は、ある日、一つ残ったティーカップに、黄金色のお茶が残ってるのに気づいたの。
      それが何か独りの女の子は知っていたけど、あんまりにもおいしそうだから。
      独りの女の子は、それを飲んじゃったの。
      それで、おしまぁい。お茶会には誰もいなくなっちゃった   』

    25: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 00:53:37 ID:W56qDLe3
     短いその本を読み終えて、幹也は小さくため息を吐いた。
     何のことが書かれているのか、まったく分からなかった。
     分からなかったが、少なくとも、暇は潰せた。
     あとは、そのわからないことを考えて暇を潰せばいい。全てはその繰り返しだった。

    「お見事、お見事、大見事。さすが朗読が上手いわね、三月ウサギ」

     ぱん、ぱん、ぱん、と。
     なげやりな拍手の音と共に、少女の声がした。
     ヤマネの声ではない。ヤマネよりも冷たい感じのする、鋭い声だ。
     拍手と声のする方向を幹也は見る。
     13階段の傍。本棚に背をもたれて、長く艶のある黒髪の少女が立っていた。
     少女は男物のタキシードを着て、小さなシルクハットをかぶり、おまけに黒い杖まで持っていた。
     彼女もまた、狂気倶楽部の一員であり、幹也――今この場では三月ウサギだが――とヤマネの知り合いだった。

    「……マッド・ハンター。着てるのならば声をかかえればいいのに」
    「あら、あら、あら。ごめんあそばせ。あんまりにも仲がいいから邪魔をするのも悪くてね」

     つ、と紅色がひかれた爪先で、マッド・ハンターは幹也を指差す。
     そこには、幹也に抱きつくようにして甘えるヤマネがいる。朗読中はずっとこうだった。
     幹也は小さくため息を吐き、

    「言っとくけどね、僕は発情期じゃないよ」
    「あら、あら、あら。でも、発狂期なのでしょう?」
    「……ハ」
    「あら、あら、あら。違ったかしら? そうね、違うわ。永遠の発狂を『期』とは言わないもの」
    「君に言われたくはないな、イカレ帽子屋め。何人の帽子を集めりゃ気がすむんだ」
    「それは、それはもう!」

     マッド・ハンターは言いながらくるりと回り、ステップを踏みながら、かろやかに椅子の背を引いてそこに座った。
     幹也とは対角線上。長机の一番端に。
     座り、足を組み、肩に杖を乗せてからマッド・ハンターは答えた。

    「全て、全て、全ての帽子を集めるまで、ですよ!」
    「その前に君が死ぬのが先だと思うがね」
    「あら、あら、あら! そしたら私の帽子が手に入るわけね。すばらしいわ」

     言って、マッド・ハンターはくすくす笑った。
     処置なし、と心の中で呟き、幹也は手持ち無沙汰になった手をヤマネの髪に伸ばす。
     栗色の毛を、手ですきながら、幹也は言った。

    「ヤマネ。今日はお前一人か?」
    「うん? うぅん?」
    「どっちだよ」
    「えっとねぇ。お兄ちゃんがいる」
    「……。他には?」
    「お兄ちゃんがいれば、それでいいよっ!」

     マッド・ハンターと幹也は同時にため息を吐いた。聞くだけ無駄、というやつである。
     仕方なしに、幹也はマッド・ハンターに尋ねる。

    「『眼球抉りの灰かぶり』はどうした? あいつ暇なんじゃなかったのか」
    「あの子は、あの子の、あの子なら最近新しい子に熱中中中中よ」
    「繰り返しはいいよ――ああ、じゃあ今日は狂気倶楽部というより、『お茶会』だな」
    「うふ、うふふ、ううふふ。ヤマネにマッド・ハンターに三月ウサギ。穴から転げる子は来るかしら?」
    「『裁罪のアリス』は無理だろ。あいつがいちばん忙しいだろ」

     幹也はいいながら立ち上がる。誰もこないのなら、自分がやるしかない。

    26: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 00:59:51 ID:W56qDLe3
     椅子から立ち上がり、幹也は上へと向かった。飲み物を取りにいくためだ。
     マスターの存在しないこの店では、自分たちでやるしかない。

    「わ、わ、にゃ! お兄ちゃん落ちるっ!」
    「落ちたくないならつかまってろよ。それが嫌なら落ちろ」

     幹也の言葉に、ヤマネはさらに手に力を込め、両足を腰に回し、全身で幹也にしがみついた。
     意地でも歩く気が存在しない。
     軽いので問題はなかった。幹也はヤマネを抱えたまま階段まで行き、

    「紅茶、紅茶、紅茶をお願いね」

     後ろから聞こえる声に、手をひらひらと振って答えた。
     十三の階段を着合いで昇り、喫茶店『グリム』のカウンターへと真っ直ぐに進む。
     中で優雅に茶を飲んでいるゴスロリ少女たちが不審げな――あるいは羨ましげな――瞳で見てくるが、全部無視した。
     狂気倶楽部とは、格好から入る少女にとって、敬愛と侮蔑と尊敬と憎悪の対象でもある。
    「他人と違う」ということに憧れる少女は狂気倶楽部に入ろうとし。
    「誰とも違う」ということに気づいて、狂気倶楽部を怖れ憎むのだ。
     その視線を全て幹也は無視する。ヤマネはそもそもまったく他を見らず、ただ幹也に甘えるだけだ。
     手早く、適当に紅茶とコーヒーとホットミルクを用意して、盆につぎ、零さないように地下へと戻る。
     地下の図書室では、マッド・ハンターが本を読みながら待っていた。

    「おお、おお、おお! お疲れさまだね、三月ウサギ」
    「そう思うなら少しは手伝ってくれ――はい、紅茶」
    「どうも、どうも、どうもありがとう」

     お礼を言うマッド・ハンターの前に紅茶を置き、残る二つを手に幹也は下の椅子へと戻った。
     ヤマネは、今度は、背を幹也にもたれて座った。
     三人は手に飲み物を取り、掲げ、声を揃えていった。

    「――『狂気倶楽部に乾杯』」


    (続)

    27: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 01:24:11 ID:W56qDLe3
    極めて意図的に中二病向けなサイ娘が書きたくなった
    読み返したら本気で中二病っぽかった
    プロット考えたら嫉妬スレ向けになった
    こっそり早く書き上げよう

    29: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 02:17:43 ID:W56qDLe3
     狂気倶楽部とは、つまるところ「ごっこ遊び」である。
     誰が言い出したのか、誰が作り出したのかすらはっきりしない。
     ただ、その『始まり方』だけははっきりと伝わっている。なぜならば経緯を記した地下図書室にあるからだ。
     元々喫茶店「グリム」は少し変わった喫茶店であり、古いアンティークと雰囲気が合わさって
     ゴスロリ少女が集まる、通向けの喫茶店だった。
     そのうちに、集まる少女の誰かが言った。
    『ごっこ遊びをしましょう』
     集まる少女の誰かが賛同した。
    『本名を隠して、「お話し」の名前を借りて。ごっこ遊びをしましょう』
     集まる少年の誰かが賛同した。
    『キャラクターをなぞらえて。二つ名をつけて。楽しい楽しいごっこ遊びをしましょう』
     集まる少女と少年が賛同した。
    『私はアリス』
    『あたしは赤頭巾』
    『僕はピーターパン』
    『わたくしはシンデレラ』
     こうして、童話と元にした、『ごっこ遊び』が始まった。
     始めは他愛のない、あだ名の付けあいのようなものだった。
     けれども、ゆっくりと、それは変質していった。
     本名も何も知らない、喫茶店だけで通じるあだ名。
     それは選民意識を伴い、やがては、『ごっこ遊び』から『物語』へと変わる。
     異端な登場人物。真似、ではなく、本物になっていた。
     初代シンデレラは親友の目を抉って自殺した。
     初代アリスは、その存在を特別なところへと押し上げた。
     初代ピーターパンは、永遠を求めるあまりに発狂した。
     初代赤頭巾は、親戚に地下室に閉じ込められて堕ちてしまった。
     そうして。
     その名は受け継がれ。二代目たちは、最初から異端なものたちで構成され。
     名前を受け継ぎ、二つ名をつけられる彼女ら、彼らは、いつしかこう呼ばれた。
     喫茶店に来るだけで、名前を受け継がれない「観客」たちから、こう呼ばれたのだ。

    ――「狂気倶楽部」と。

    30: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 02:30:06 ID:W56qDLe3
     そして今、三代目「三月ウサギ」こと、『五月生まれの三月ウサギ』須藤幹也は優雅にコーヒーを飲んでいる。
     彼の本名を、この場にいる人間は誰も知らない。
     幹也も、今この場にいる二人の本名を知らなかった。
     あくまでもこの場だけの付き合い。死ぬまでの暇つぶし。
     虚無的で刹那的な空間を、そしてそこにいる異常な、この場ではあるいみ通常な少女たちを気に入っていた。
     居心地がいい、とすら思った。久しく飽きることはない。そう感じた。

    「お兄ちゃんっ! 今日はもうご本読まないの?」

     膝の上に座る、ヤマネ――何代目かは知らない――『眠らないヤマネ』は、顔を上げて幹也にそう問いかけた。
     ぴちゃぴちゃと猫のように舐めていたホットミルクが、いつの間にか空になっていた。
     逆しまになった瞳を見つめて、幹也は答える。

    「本は飽きたよ。一日一冊で十分だ。たまにはヤマネが読めばいいじゃないか」
    「やーだよ。ヤマネは、お兄ちゃんに読んで欲しいんだもんっ!」

     言って、コップを机に置き、ヤマネは再び反転した。
     猫がそうするように、幹也の膝の上で丸くなった
     どこが『眠らない』だ、と幹也は思う。二つ名をつけるのは一代前の人間か、あるいは『名づけ親』と呼ばれる倶楽部仲間で、本人の意思ではない。
     回りがそう感じたからこそつける名前が二つ名だ。
     眠らない――活発に動き続ける、ということだろう。
     死ねば動かなくなるかな。そう思いながら、幹也はヤマネの頭をなでた。

    「今日も今日も今日とて仲がよさそうだね。いやはやいやはや妬けてしまうよ」

     呆れるように、からかうようにマッド・ハンターが言う。『首刈り』という物騒な二つ名を持つ少女だ。
     もっとも、幹也は彼女をそう恐れてはいない。マッド・ハンターの趣味は、大抵同年代の少女へと向いているからだ。
     幹也にとってはお喋りで面倒な相手でしかない。
     それでも構うのは、やはり暇だからだろう。

    「焼けるっていうのは、二枚舌でも焼けるのか」
    「いやいやいや。残念ながら私の下は一枚だもの。焼けてしまったら困る」
    「焼けて静かになった方が世界のためだ」
    「君の世界はどうか知らないが、私の世界はこれで幸せだよ」

     マッド・ハンターは、満足げにそう言って、手にしていた本を机の上に投げ置いた。
     しおりも何もはさまっていない。読み終えたのか、続きを読む気がないのか。
     恐らくは後者だろう、と幹也は思う。

    31: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 02:45:04 ID:W56qDLe3
     無視して、ヤマネの頭をなでながら思考に戻る。
     今日の暇つぶし的な思考は、先ほど読んだ本についてだ。
     少女が片方を毒殺し、毒殺することで独りになり、最後には誰もいなくなる話。
     出来の悪いマザーグースか何かのように思えた。これを作った奴はそうとうにひねくれているに違いないと幹也は思う
     この本は、書店に流通している本ではない。
     喫茶店「グリム」の地下の「図書室」に存在する本。
     それらは全て、過去の「狂気倶楽部」のメンバーが書いたものだ。
     基本的に著者は乗っていない。文体でこの本とこの本は同じ人が書いたな、と思うくらいだ。
     本は、誰かに見せるための本ではなかった。
     ただ、暗い嫌い自分の内面を吐露しただけの、怨念のような本だった。
     それを、幹也は、何を気負うこともなく毎日読んでいた。
     学校から還って、寝るまでの時間を、幹也はここですごす。
     居心地がいいのでも、合いたい人間がいるのでもない。
     一番『マシ』な秘密基地だから、とでもいうかのような理由だった。

    「ヤマネは本は好きかな?」

     幹也の問いに、ヤマネは丸まったまま即答する。

    「お兄ちゃんの方が好きだよっ!」

     それは嬉しいことだ、と幹也は思う。
     たとえ出会った瞬間に「お兄ちゃんっぽいからお兄ちゃんっ!」と言われ、それ以降依存するかのように
     つねにべったりと甘えられているとしても、好意を向けられていることは嬉しかった。
     好意を向けられれば、少なくとも暇つぶしはできるから。
     依存と調教。ヤマネと幹也は歪な関係であり――

    32: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 02:45:54 ID:W56qDLe3

    「今日も、今日も、今日とて君はやるのかな?」

     マッド・ハンターの楽しそうな声。

    「まあね――どうせ、暇だし」

     幹也は答え、ヤマネの頭をなでていた手を、おなかの下へと回す。ヤマネの小さな身体を抱きかけるように。

    「うぃ? お兄ちゃん?」

     ヤマネの不思議そうな声。嫌悪はにじみ出ていない。
     幹也は片手でヤマネを持ち上げる。満足に食事をしていないのか、酷く軽かった。
     持ち上げて、机の上からコップをどかし、広くなった机にヤマネの身体を置いた。
     丸いヤマネの瞳が、幹也を見上げている。

    「うぃ、お兄ちゃんやるのっ?」
    「暇だしね」
    「いつものようにいつものごとく、見させてもらおうかな」

     そう。
     狂気倶楽部においては、歪こそが正常である。
    『元ネタ』が共通しているせいか、ヤマネとマッド・ハンターと幹也は、比較的話す機会があった。
     ヤマネが依存し。
     幹也が壊し。
     マッド・ハンターが薄く微笑みながらソレを見る。
     異常な光景が通常に行われる場所。それが狂気倶楽部の集い場だった。
     そして、幹也は、いつもの如く、

    「――それじゃあ、暇つぶしだ」

     机に押し倒した、小さなヤマネの細い首に、手をかけた。


    (続)

    34: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 21:35:58 ID:L2vHHL9M
    ヤンデレ抜きで普通におもしろげだな

    35: 名無しさん@ピンキー 2006/05/30(火) 23:54:32 ID:dUdy7Kor
     幹也が先代三月ウサギ――『12月生まれの三月ウサギ』に出会った場所は、実を言えば狂気倶楽部やグリムではない。
     そもそも、『三月ウサギ』として出会ったのではない。
     学校の図書室に残る、二つ年上の三年生の先輩。二つ名のない、普通の学生である「里村・春香」と出会ったのだ。
     出会った場所は、陽が暮れかけて、赤く染まった図書室。
     誰もいなかった。図書室は閉館時間を向かえ、図書委員である春香を除いて、誰もいなかった。
     幹也がいたのは完全に偶然である。ただ暇つぶしのために本を読んでいて、気づけば閉館時間になっていたのだ。
     気づけば、誰もいなくなっていた。
     誰もいなくなっていることにさえ、幹也は気づいていなかった。春香が声をかけなければ、永遠にそこで本を読み続けていたかもしれない。

    「ねぇ」

     幹也が顔をあげると、三つ編みの髪を三つ作った、銀縁眼鏡の先輩がいた。
     叱られるかな、そう思った。
     別に叱られても構わないな、そう思った。
     どんな事態になれ、暇つぶしにはなるからだ。

    「……何ですか?」

     問い返す幹也の持つ本を指差して、春香ははっきりと言った。

    「その本、死ぬほど詰まんないわよ。読むくらいなら死んだ方がマシね」

     意外な言葉だった。
     そんな言葉を言われるとは、少しも思っていなかった。
     せいぜい、「閉館時間ですよ」と言われるくらいだと思っていた。
     興味がわいた。
     だから、幹也も正直に答えた。

    「つまる本なんてあるんですか?」

     その言葉が、そのときはまだ名前も知らなかった里村・春香の興味を引いたのだと、
     幹也は数ヵ月後、春香の二つ名と共に知ることになる。

    36: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 00:09:07 ID:ju7bF4dq
     そして今――幹也は『三月ウサギ』を里村・春香から受け継ぎ、グリムの首を絞めている。
     数ヶ月の間、暇つぶしの相手になってくれた里村・春香はもういない。
     狂気倶楽部において、名前を継ぐというのはそういうことだった。
     里村・春香はどこにもいない。
     幹也は彼女から二つ名と、喫茶グリムの存在と、狂気倶楽部での椅子を受け取り。
     暇を潰す場所を、学校の図書室から、グリムの図書室へと移した。

    「あ――っ、う、あ、」

     首を優しく絞められて、グリムは嬉しそうに呻いた。力を込めていないので、普通に喋れはする。
     力を込めれば死ぬということに、代わりはないけれど。
     遊びを思いついたのがグリムだったのか幹也だったのか、あるいは他の誰かだったのか、幹也はもう憶えていない。
     気づけば、こんな関係になっていた。
     幹也は思う――これくらい普通だ。自分は普通だ。みんなしたいと思っている。する相手がいないだけだ。いい暇つぶしだ。
     平然と首を絞める少女こそが狂っていると、幹也は思う。

    「お兄ちゃんっ、もっと、もっとぉ、」

     甘えるようにグリムが言う。
     本人曰く、首を絞められるのは、たまらなく心地良いらしい。
     殺意を以って支配されている感覚が、死を以って繋ぎとめている感触が、相手の全てを共有している気分が、
     寂しがり屋で甘えん坊で、独占欲と依存癖の塊であるグリムにとっては、何よりも心地良いらしい。

    「言われなくてもやるさ――暇だからね」

     首を絞める手に力を込める。
     グリムの細く白い首に、ゆっくりと、指先が食い込んだ。そのたびにグリムは嬉しそうに笑う。
     その気持ちは、幹也にはまったく分からない。
     首を絞められて何が楽しいのかわからない。他人を支配も共有も共存もできるはずがないとすら思う。
     こんなのは暇つぶしだ。リアルに還ってくる相手の反応が楽しいだけだ。
     冷めて冷静な心とは反対に、身体は、熱を持ったように動き始めた。

    37: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 00:30:10 ID:ju7bF4dq
     首を絞めながら、幹也は身を近づける。グリムの小さな身体を押しつぶすように。
     顔を近づけ、グリムの小さな耳を優しく噛む。こりこりと硬い感触があった。
     そのまま噛み千切ったら、この少女はどんな反応を示すだろうか。そんなことをふと思う。

    「あ――、あっ、あは、あはっ」

     首を絞められ、身体を端から食べられかけながら、グリムは嬌声と笑い声が混ざり合った声を漏らす。
     心の底から楽しそうだった。虚ろな瞳は妖しく笑っている。
     独占と依存を背負うグリムにとって、食尽というのはある意味究極のあこがれなのかもしれない。
     そして、幹也にとっては。
     そんな憧れなど、知ったことではなかった。

    「楽しいね。楽しいと思いたいものだよ、本当に」

     口から漏れる言葉に意味はない。まったく意味のない、ため息のような発言だ。
     けれども、グリムはその言葉を聞いて、さらに嬉しそうに笑う。

    「お兄ちゃんっ、楽しい、たのし、いのっ! やったっ」

     首を絞められ、途切れ途切れの声で、それでもグリムは嬉しそうに言う。
     幹也は片手で首を絞めたまま、右手をゆっくりと下へと這わせた。
     むき出しになった鎖骨をなぞり、さらに下へ、下へ。
     フリルのついた裾まで辿りつくと、手は服の下へともぐりこみ、今度は上へと上がった。
     ふくらみのない胸――ではなく。はっきりと形の分かるアバラを、一本一本幹也はなぞっていく。

    「あ、あは、あはっ、あはははっ、あははははははははははははっ!」

     くすぐったいのか。楽しいのか。気持ちいいのか。嬉しいのか。
     首を絞められ、鎖骨をなぞられながら、グリムは笑い続ける。
     その笑いを塞ぐかのように、幹也は耳をかんでいた唇を、グリムの唇へと移した。

    38: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 00:43:03 ID:ju7bF4dq
     重ねた唇から舌を伸ばしてきたのは、グリムの方だった。
     八本、九本とあばらを数えながら、倒錯した行為を続けながら、幹也も舌を絡ませる。
     意志を持った触手のように、二対の舌は勝手に蠢き、口の端から唾液が漏れた。
     倒錯した行為に没頭しながらも――幹也の頭は冷えていた。
     どうしてこんなことをしているのだろう、と自問して。
     暇だからだ。時間つぶしにはなるからだ、と自答できるほどには。

    「ん、っん、んぁ――、う、あ、」

     少しだけ、手に力を込める。首を絞める手に。
     繋げた唇の向こうで、グリムが苦しげに息を履いたのが分かった。
     唾液と下に混ざって、吐息が口の中に入り込み、幹也の肺腑を侵食していく。
     首を絞め。細い身体を好き勝手に弄びながら、幹也はキスをしたままグリムを見た。
     目をつぶるなどという、殊勝な行為はしていなかった。
     グリムは瞳をしっかりと開け、身体をすき放題にする幹也を、じっと見ていた。
     その瞳は笑っている。その瞳は物語っている。
     獲物を絡め取った蜘蛛のように笑うグリムの瞳は、こう言っている。

    ――楽しい、お兄ちゃんっ? もっと楽しんでいいの。でも――その代わり。

     篭絡する瞳で、歳にあわない妖艶な、狂った瞳で、グリムはこう言うのだ。

     ――ずっと愛してねっ。ずっと、ずっとグリムのお兄ちゃんでいてねっ。

     幹也は唇を離す。ぬるりと舌が滑りながら、グリムの唇から抜け出る。
     顔を離すことなく、間近で幹也は言う。

    「楽しいよ――ありがとうグリム」

     手を離すことなく、心中で幹也は思う。

     ――楽しくはない。退屈だ。ああ、暇が此処にある。

     倒錯した二人は、そのまま、倒錯した行為に溺れていく。お互いを食い合うような行為に。
     その行為を、口を挟むことなく、マッド・ハンターは見ていた。
     異常な二人を、にやにやと、にやにやにやと笑いながら、異常な笑みを浮かべながら、ずっと見ていた。
     倒錯した行為は終わらない。
     倒錯したお茶会は、どこまでも続く。


    (続)

    40: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 02:04:40 ID:GMOaiQZQ
    サイ娘キタコレ!

    続き期待して待ってます

    41: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 02:12:06 ID:M/ahUCy2
    もはやヤンデレとかサイ娘とか抜きで面白い
    更にその味付けが深くなった日には恐ろしく上質なものが出来るなぁ
    流石です、作者様(*´д`*)

    43: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 02:41:17 ID:ju7bF4dq
     里村・春香と出会ってから分かれるまでの数ヶ月の間、幹也は春香を好きだと思ったことは一度もなかった。
     ただ、彼女の左手に隠すことなく刻まれた細く数多い傷跡は、幹也の興味を惹くだけのものがあった。
     幹也には自傷癖も他傷癖もない。そういうことをする人間に対する興味はあった。
     なぜそうするのか――それを考えていれば、正しく暇つぶしになった。

    「どうしてこういうことをするの?」

     夕暮れの図書室。紅く染まった、本と埃の、時の積み重なったにおいのする部屋。
     二人だけの世界で、幹也は、春香の手首を舐めている。
     手首につけられた傷跡を、穿り返すかのように、丹念に舐めている。
     春香は光悦とした表情とともに答えた。

    「人による。狂気倶楽部には、手首を切る人は多いけど、みんな理由が違う」

     狂気倶楽部、という名前を、幹也は図書室で「遊ぶ」ようになってから幾度となく聞いていた。
     それが何かと聞いても、春香は決して教えようとはしなかった。
     いつか教えてあげる。それまで誰にも秘密。その二つだけしか言わなかった。
     幹也もそれ以上尋ねようとはしなかったし、誰にも話すつもりはなかった。
     そもそも、学校では「可もなく不可もなく特徴のない」生徒だった幹也には、そういうことを話す相手はいなかった。
     家でも、学校でも、彼は普通である。ただ、退屈していただけだ。
     何の理由もなく、何の原因もなく、生まれつき彼は――ただひたすらに、退屈していた。
     だからこそ、こうして退屈しのぎと称して、退廃的で倒錯した行為にふけっている。
     手首から舌を外して、幹也はもう一度尋ねた。

    「なら――春香の理由は?」

     幹也は、学校では『12月生まれの三月ウサギ』ではなく、名前で呼んでいた。
     春香がそう懇願したのだ。まるで、特別な絆を作るかのように。
     春香は微笑んで、答えた。

    「死にたいから。死にたいけど怖くて、手首しか切れないの」

     分からなかった。
     どうして死にたいのか。
     だから、幹也は尋ねた。

    「春香は、どうして死にたいの?」

     笑ったまま、春香は答えた。

    「生きるのが怖いから」

     この答えの25日後、里村・春香は言葉どおりに、屋上から飛び降り自殺をした。
     そしてその遺言に従い、幹也は暇をもてあましながら、喫茶店「グリム」を訪れたのだった。

    44: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 03:08:51 ID:ju7bF4dq
     退廃的で倒錯的な行為を終えて、幹也はグリムの身体から離れた。
     机の上で、グリムは、ぐったりと力を失って気絶している。
     フリルのついた、黒いワンピースが乱れていた。
     色こそ違うものの、その姿は、いつかの日のヤマネに似ていると思った。
     それもそうだ、と幹也は内心で頷く。ヤマネにやったようなことを、グリムへやったのだから。
     行為を終え、椅子に深く座りなおした幹也に、マッド・ハンターがにやにや笑いと共に話しかけた。

    「やぁやぁやぁ。『盲目のグリム』は有望な新人でしょう?
     排他的でも自傷的でもない、誘いうける依存者は久しぶりだよ」

     幹也は、眼前の机の上で横になるグリムと、昔と変わらず対角線上の端に座るマッド・ハンターを見つめて言う。

    「喫茶店の名前はつけないものとばかり思ってたよ。分かりにくいことこの上ない。
     途中から喫茶店に向かって話しかける気分になった」
    「まぁ、まぁまぁそれも仕方がないよ。この子、どうにもマスターの関係者らしいよ。
     会ったことはないそうだけれどね」

     随分と曖昧で適当なことだ、と幹也は思う。久しぶりに来たが変わりはない。
     あの頃。
     春香を失い、暇をもてあまし、マッド・ハンターとヤマネと過ごしていた頃と、何も変化はない。
     きっと、永遠に変化しないまま、唐突に終わるのだろう。
     まったく変わらないマッド・ハンターは、やはり変わらない笑いを浮かべながら幹也に言う。


    「しかし、しかし、しかしだね。三月ウサギ君はどうにも、『妹』に好かれやすい節があるね。
     ヤマネの時もお兄ちゃんと呼ばれていただろう? 懐かしいね。
     君の本当の妹も、お兄ちゃんって呼んだのかな?」
    「狂気倶楽部の外の話は、ここではナシだったはずだろう?
     そのルールも変わったのかい、マッド・ハンター」
    「いやいやいや。変わってないよ。ただし、君の場合は有名になりすぎたからね」

     ――有名。
     マッド・ハンターの言葉は間違っていない。
     ヤマネと分かれ、狂気倶楽部からしばらく離れるきっかけになった事件で、幹也は有名になった。
     マッド・ハンターも、その事件を知っているし、本来秘密のはずの幹也の本名も知っている。
     それでも二つ名で呼んでくれるのは、マッド・ハンターの優しさなのかもしれない。

    「それで、それで、それで? 君はまたしばらくここにいるの?」
    「いや――」

     幹也は言葉を斬り、失神したまま動かないグリムを見る。
     今は失神しているだけだ。
     けれど、いつかは死ぬかもしれない。
     里村・春香のように。
     そして――ヤマネのように。

    「この子を愛せるようになったら、またどこかに行くさ」

     グリムの黒い服と白い足を見ながら、幹也はふと思い出す。
     ヤマネのことを、春香のことを。
     忘れることのない、一瞬だけ退屈から救われた事件のことを。


    (続)

    45: 名無しさん@ピンキー 2006/05/31(水) 22:17:28 ID:VAe4dHpS
    後から後から微笑がこぼれてくる。

    47: 名無しさん@ピンキー 2006/06/01(木) 02:02:09 ID:zXEahP8G
     狂気倶楽部の数少ない原則の一つに、外での関わりを持たないというものがある。
     外で話すな仲良くなるな、ということではない。
     他の人間に、狂気倶楽部という存在を知られるな、ということである。
     一対一でこっそりと密談するのならばいい。けれども、横の繋がりを、外に知られてはならない。
     そういった、排他的な面が狂気倶楽部にはあった。
     それは、狂気倶楽部の面子が――事件を起こしやすいという一面を持つからだ。
     自殺なり他殺なり。
     何かの事件を起こしやすく、起こしたときに、個人ではなく狂気倶楽部を責められないように。
     あくまでも喫茶店グリムとその地下図書室を除いては、彼ら、彼女らは他人同士だった。
     本名も住所も分からない、二つ名と異常性だけのつながり。
     だから――

     里村・春香の葬式には、狂気倶楽部の面々は来なかった。

     そのときはまだ幹也は狂気倶楽部の一員ではなかったけれど、そのことだけは断言できる。
    「学校代表者」を除けば、春香の葬式には、幹也しか来なかったからだ。
     誰もいない葬式。
     両親と、義理でくる人以外には、誰もいない葬式だった。
     誰もかもがおざなりに泣いていた。
     幹也は泣かなかった。
     泣かずに、ただ、

     ――ああ、彼女は本当にこの世に未練などなかったんだな、と思った。

     そうして、生前ただ一人の友人とった幹也は、葬式から帰るその足で喫茶店「グリム」へと向かったのである。
     

    48: 名無しさん@ピンキー 2006/06/01(木) 02:20:56 ID:zXEahP8G
     そして今、『五月生まれの三月ウサギ』という二つ名を得て、幹也は地下図書室で暇を潰している。
     膝の上には白いワンピース姿のヤマネ。
     情欲と肉欲と食人と他傷を混ぜ合わせたような行為を経て、ぐったりと力を失って幹也にもたれかかっている。
     その目に光はなく虚ろだが、幸せそうに笑ってもいた。
     幹也はその細い両手首を掴み、普段は隠されている手首の傷を、抉るように撫でていた。
     普段傷を隠してるプレゼント用のリボンは、今は何かの冗談のようにヤマネの首に巻かれている。
     まるで、絞めた跡を隠すかのように。

    「雨に――唄えば――」

     手首の傷を撫でながら、子守唄のように幹也はワン・フレーズを繰り返す。
     手首の傷。
     春香は死に損ねた結果としての傷だった。
     ヤマネは、「お兄ちゃんに会えなくて寂しいときにつけるのっ!」と言った。
     幹也には自殺をする人間の気持ちも自傷をする人間の気持ちも分からない。
     そういうこともあるか、と思うだけだ。
     暇を潰すために、傷口を唄いながら撫で続ける。

    「前から、前から、前から思っていたのだけど。君、映画に何か思いいれでもあるの?」
    「映画?」

     幹也の問いかけに、反対側の椅子に座るマッド・ハンターは「雨に唄えば」と言った。
     幹也はああ、と頷き、

    「そっちじゃないよ」

     ん? と首を傾げるマッド・ハンター。
     幹也は掴んだヤマネの手首をぷらぷらと揺らしながら答える。

    「『時計仕掛けのオレンジ』の方」
    「なんともなんともなんとも――悪趣味なまでに良い趣味だね君は」
    「そうかもしれないね。でも、あれは退屈しのぎとしては楽しそうだよ」

     映画の中。暇な遊びとして、唄いながら暴行を加えるシーンを幹也は思い出す。
     そして、今こうしてヤマネにしているのも、同じようなのかもしれないな、と思い、自嘲げな笑みを浮かべる。
     愛情を受け止める手段として、首を絞め、身体を弄ぶ。
     それが、暴行と殺害に代わったところで、意味は変わらないだろうと思うのだ。
     首を絞められても喜ぶヤマネは。
     たとえ殺されても、喜ぶだろう。
     その瞬間、相手を独占できるのだから。

    49: 名無しさん@ピンキー 2006/06/01(木) 02:35:30 ID:zXEahP8G
    「うあー? うぃ、お兄ちゃん……?」

     マグロのように虚ろだったヤマネの瞳に、ようやく意志の色が戻ってきた。
     全身を幹也に預けたまま、顔だけを上げて幹也を見る。
     丸い瞳と目が合う。
     ふと目を突きたくなった。きっと、時計仕掛けのオレンジの話をしていたからだろう。
     目を突く代わりに、その栗色の髪をなでてやった。

    「ひゃはっ! お兄ちゃんっ、くすぐったいよっ!」

     ヤマネは嬉しそうにそう言って、身体をねじり、首を伸ばした。
     幹也の首を、顎を、頬を嬉しそうに舐める。

    「……何してるの?」
    「スキンシップっ!」

     幹也の問いに嬉しそうに答え、ヤマネは舌を這わせる。
     マーキングをする犬と対して変わりはなかった。
     その二人を見て、マッド・ハンターが「やれやれ」とでも言いたげにため息をついた。

    「まったくまったくまったくね。君たちは獣のようだ獣だケダモノのようだ」

     呆れてはいるが、楽しそうでもあった。
     傍から見れば異常であるはずのスキンシップを、楽しそうに見つめている。
     歪んだ少女の愛情は続き、愛情を持たない少年は、暇を持て余しながらも、愛情に対して行為で返す。
     それを、残る少女が笑いながら見つめている。
     これが、ここしばらくの幹也の日常だった。
     ヤマネとマッド・ハンターとの三人で過ごす狂気倶楽部での日々。
     退屈だけれど、暇つぶしにはなる日々。
     異常だけれど、それが平常となる日々。
     歪んだままに穏やかな日々だった。

     ――それが崩壊したのは、狂気倶楽部の外に、その狂気が持ち込まれたのが切っ掛けだった。

    (続)

    51: 名無しさん@ピンキー 2006/06/01(木) 02:53:11 ID:3ZDBu5zu
    いつもながらGJ。どんな崩壊が待っているのかwktkだよ。

    ところで一つ確認させて頂きたいのだが「マッド・ハッター」ではなく「マッド・ハンター」なのは
    首刈りにかけてあるんだよな?

    52: 名無しさん@ピンキー 2006/06/02(金) 04:04:01 ID:zdEZTGLI
    >>51
    ですね、「マッド・ハンター」です。
    多少言葉遊びも含まれています
    オチまでにちゃんと回収できるよう頑張ります

    53: 名無しさん@ピンキー 2006/06/03(土) 02:49:59 ID:+eT8KhQA
     里村・春香がいなくなって数ヶ月、幹也の生活は完全に固定していた。
     学校が終わると、図書室に行くことなく、喫茶店グリムへと向かう。
     部活動が終わるくらいの時間までは、グリムで、マッド・ハンターやヤマネと過ごす。
     そして、二人を置いて、家へと帰る。
     ヤマネは先に帰る幹也を恨みがましい目で見つめたが、無理矢理に引き止めようとはしなかった。
     代わりに、

    「お兄ちゃんっ、明日、明日も来てねっ! 絶対だよっ!」

     と約束の言葉を投げかけるのだった。
     幹也はその言葉に頷きつつも、内心ではどうでもよかった。
     学校は嫌いではない。勉強もそこそこで、話し相手もいて、平穏な日々。
     ただし、退屈だった。
     家族は嫌いではなかった。父がいて、母がいて、妹がいて。平和な一軒家。
     ただし、退屈だった。
     狂気倶楽部は嫌いではなかった。マッド・ハンターやヤマネ、時にはその外の少女との異常な付き合い。
     ただし、退屈だった。
     面白いことがないから退屈なのではない。
     退屈だと思うから退屈なのだと、幹也は自覚していた。
     ヤマネを抱くことに楽しさを感じることもなければ、首を絞めるのに背徳感もない。
     ただただ、退屈だった。
     だから、

    「――兄さん、明日暇ですか?」

     と、家で妹に言われたとき、幹也は迷わず「暇だよ」と答えた。
     頭の中ではヤマネとの約束を憶えていたが、どうでもよかった。
     退屈だったのだ。
     その結果、どんなことになろうが、構いはしなかった。

    54: 名無しさん@ピンキー 2006/06/03(土) 03:07:24 ID:+eT8KhQA
     妹。
     その姿を見るたびに、最近の幹也はヤマネのことを思い浮かべる。
     勿論ヤマネと妹は似てもつかない。
     妹は物静かで口数が少なく、ほとんどの時間を鴉色の制服で過ごしている。
     髪の色は幹也と同じ黒で、膨らむことなく真っ直ぐに伸びている。
     背は幹也の肩に並ぶくらいだが、全体的に細く、大人びた感があった。とても中学生には見えない。
     同じく鴉色のプリーツスカートには皺一つない。丁寧で几帳面だな、と幹也は思う。
     学校帰りに買い物に行く時でさえ、制服を着ているのだから。
     もっとも、幹也とて、同じく制服を着ているのだから妹に何を言えるはずもない。
     
    「どれがいいですか?」

     幹也の隣に立つ妹が小さく言う。ぴったりと横に寄り添い、腕をくっつけるようにして立っている。
     いつものことなので幹也は気にしない。ウィンドウに並ぶケーキの山を見定める。
     母親の誕生日ケーキだった。
     ――プレゼントは既に買っているので、みんなで食べるケーキを買いたい。兄さんも好きなケーキを。
     そう妹に頼まれたのだった。
     好きなケーキ、と言われても、幹也にはぴんとこない。好きなものも嫌いなものもないからだ。

    「――これは?」

     適当なチーズケーキを指差して幹也が言うと、その手を掴んで、ぐい、と妹は降ろした。

    「指差してはいけません」

     そのまま、指を差さないように、ぎゅ、と腕を掴んで離さなかった。
     幹也は仕方なく、目線だけでケーキを見て、

    「あのロールケーキは?」
    「それがすきなのですか?」
    「好きでも嫌いでもないよ」

     正直にそう言うと、妹は少しだけ頬を膨らませた。

    「それではだめです。好きなものを選んでください」
    「好きなの、ね……」

     幹也は悩み、すべてのケーキを見る。好きなものも嫌いなものもない。
     が、一つだけ、ピンと来るものがあった。

    55: 名無しさん@ピンキー 2006/06/03(土) 03:08:07 ID:+eT8KhQA

     ごくありきたりな、生クリームのイチゴケーキ。
     けれど、その上には、お菓子で出来たウサギが乗っていた。
     妹に話していないものの――『五月生まれの三月ウサギ』として、興味が沸いた。

    「これ。これにしよう。これがいい」
    「これですね」

     幹也の視線を正確に読んで、妹は店員にケーキ名を告げる。
     すぐに、箱に入れたケーキを手渡された。
     妹は、幹也に片手を絡ませたまま、器用に残った手で財布からお金を取り出そうとした。
     そして、それよりも早く、

    「はい、どうぞ」
    「ありがとうございましたー!」

     幹也が、ポケットから千円札を取り出して、店員に渡した。
     お釣りを受け取る幹也を、妹は、微かに嬉しそうな、怒ったような、どちらともつかない顔で見ている。

    「……兄さんはずるいです」
    「みんなずるいのさ」

     妹の言葉の意味がわからなかったが、幹也は適当にそう答え、絡ませていない方の手でケーキを受け取った。
     頭を下げる店員から目を離し、踵を返す。
     そして。

    「――――――――――」

     鏡張りの向こう、店の外に。
     手首にラッピング用のリボンをまき、栗色の髪の毛で、フリルのついた白いワンピースを着て、裸足の少女がいた。

     少女は――ヤマネは。

     泣きそうな、それでいて笑い出しそうな、不思議な表情で、幹也と、手を絡める妹を見ていた。



    56: 名無しさん@ピンキー 2006/06/03(土) 03:28:22 ID:+eT8KhQA
     ヤマネとはっきりと目があった。
     泣き笑いを浮かべ、口元をへらへらとゆがめるヤマネと、はっきりと目があうのを幹也は感じていた。
     幹也は考える。明日も来てね、と約束して、来なかった自分を探して、街をさ迷うヤマネの姿を。
     いつもの格好で、裸足のまま、街をうろつくヤマネの姿を。
     そして思うのだ。
     幹也が約束を破ったのは、これが始めてではない。いつもは、約束を破って、家に帰っていた。
     けれど、今日はたまたま――妹と、町に出た。大人びて、幹也と似ていない妹と。
     そして、たまたまではなく、いつものようにヤマネは街をさ迷って、幹也の姿を見かけた。
     そして、ヤマネは、仲が良さそうに手を組み、ケーキを買う幹也と妹を見て、こう思ったに違いない。

     ――いつも、あの子と一緒にいるんだ、と。

     幹也と妹が店から出ても、ヤマネは一歩も動かなかった。
     へらへらと笑っている。
     へらへらと、壊れたかのように笑っている。
     その姿を妹は不審げに見ている。幹也は、真顔で見つめている。
     笑ったまま、ヤマネは言った。

    「お兄ちゃんっ! ヤマネのこと、好きっ?」

     妹が不審げな顔を深める。
     幹也は、感情を込めずに、あっさりと答える。

    「ああ、好きだよ」

     その言葉を聞いて、ヤマネは、へらへら笑いではない、満面の笑みを浮かべた。

    「そっかっ! じゃあ、お兄ちゃんっ、また明日ねっ!」

     言って、笑ったまま、どこかへ去っていった。
     裸足で去っていく姿から、幹也はあっさりと視線を外し、言う。

    「帰ろうか」
    「兄さん」

     歩き出そうとした幹也の腕を掴んだまま、妹は不審げな表情のままに、尋ねた。

    「今の人は知り合いですか?」

     幹也は、平然としたまま、あっさりと答えた。

    「知らない子だよ」


     その日は、それだけで終わった。


     そして、全てが終わり始めたことに、幹也はまだ気づいていなかった。

    (続)

    57: 名無しさん@ピンキー 2006/06/03(土) 03:38:08 ID:UCmT86MI
    いい感じに病んできましたなー。

    妹にも期待

    58: 名無しさん@ピンキー 2006/06/03(土) 23:06:36 ID:xM4iJZ1Z
    作者様GJ(*´д`*)ハァハァ
    時間軸をそろそろ自分の中でに整理しないと
    俺の頭では理解が限界、折角の良作を楽しむためにも
    ちょっと脳年齢上げてくる

    61: 名無しさん@ピンキー 2006/06/04(日) 03:32:06 ID:sVLyjdlB
    ヤマネもいい病みっぷりだが
    妹に期待しちゃう…
    キモウトだとええなあ

    62: 名無しさん@ピンキー 2006/06/04(日) 05:58:40 ID:1U8Y5B+2
    俺もキモウトがいいなぁ。

    63: 名無しさん@ピンキー 2006/06/05(月) 02:23:08 ID:HVNZGBN/
     翌日。幹也は学校が終わると同時に、喫茶店「グリム」へと向かった。
     ヤマネが「明日」と言ったからではない。
     単純に、退屈だったからだ。退屈だったからこそ、いつものようにグリムへ行き、地下の狂気倶楽部へと向かった。
     いつものように、そこには二人の少女がいた。
     マッド・ハンターと、ヤマネだ。
     幹也は唄いながら十三階段を降り終え、二人に挨拶した。

    「おはよう」
    「ん、ん、ん? おはようと言った所でもう夕方よ」
    「授業中退屈で寝てたんだよ――おはようヤマネ」

     言葉を向けられると、ヤマネの顔に、満面の笑みが浮かんだ。
     脳が蕩けたかのような笑顔を浮かべながらヤマネが言う。

    「おはよっ、お兄ちゃんっ! 今日はなにするっ!?」

     にこやかに挨拶をするヤマネに笑いかけ、幹也はいつもの指定席に座る。
     長机の一番奥の椅子に。
     いつもと違う事があるとすれば――幹也が本をとるよりも早く、その膝の上に、ヤマネが乗ってきたことだ。
     まるで、昨日の分も甘えるとでも言うかのように、ヤマネは全身で幹也にすりよる。
     臭いをつける猫に似ていた。
     ヤマネが、二つ名の通りに『ヤマネ』ならば、今ごろ幹也は穴だらけになっていただろう。

    「今日はずいぶんと甘えるね」

     幹也もそう感じたのか、言いながら栗色の髪の毛を撫でる。
     撫でられたヤマネは気持ち良さそうに微笑み、言う。


    「――お兄ちゃんっ、昨日のコって誰かなっ!?」

    64: 名無しさん@ピンキー 2006/06/05(月) 02:32:12 ID:HVNZGBN/
     唐突なその問いに、幹也の手が止ま――らなかった。
     まったく動揺することなく、頭をなでながら、幹也は言う。

    「妹だよ」
    「妹?」

     逆に、ヤマネの動きが止まった。
     その答えをまったく予想していなかったのか、瞳はきょとんとしていた。
     何を言っているのかわからない、そういう顔だ。
     家族がいないとでも思っていたのだろうか――そう思いながら、幹也は言う。

    「妹。家族だよ」
    「仲」惚けたまま、ヤマネは問う。「良いのかなっ?」

     見ての通りだよ、と幹也が応えると、ヤマネは「そっかぁ。えへへ」と、笑った。
     楽しそうに、笑った。
     楽しそうに笑う場面ではないというのに。安堵の笑みなら分かる。幹也を取られないという安堵ならば。
     けれども、ヤマネの笑いは違った。
     どこか被虐的な――自嘲じみた、歪に楽しそうな笑みだった。

    「家族かぁ! いいなぁ、いいねっ! お兄ちゃんも、ヤマネの家族だよねっ、だってお兄ちゃんだもんっ!」

     楽しそうに笑ったままヤマネは言う。
     幹也は「そうだね」と適当に頷き、ヤマネの軽い体を机の上に置く。
     退屈だった。
     妹もヤマネもどうでもよかった。退屈を潰せるのならば。
     いつものように――幹也は、ヤマネの首に手をかける。


    「うふ、ふふふっ、うふふふふっ! あは、あはっ! お兄ちゃん、楽しいねっ!」

     ヤマネは笑っている。
     いつもとはどこか違う、歯車が一つ壊れたような笑み。
     幹也は構わない。歯車が壊れても遊べることには変わりない。
     歪な、歪な今までとは違う歪さの二人。

     その二人を見ながら、マッド・ハンターはひと言も発さず、楽しそうに笑ってみている。




    65: 名無しさん@ピンキー 2006/06/05(月) 02:39:15 ID:HVNZGBN/
     結局、その日は、いつもよりも早く帰ることになった。
     ヤマネの反応が、いまいち面白くなかったからだ。常に笑っているだけでは、壊しがいがない。
     反応を返してくれるからこそ、退屈しのぎになるのだ。
     そう考えながら、幹也は一人、家へと帰る。
     ごく普通の一般家庭の中に、普通の子供として帰る。
     肌に少女の臭いが残るだけだ。家族は情事としてしか見ないだろう。
     まさか首を絞め、異常な交わりをしているとは、少しも思わないだろう。

    「雨に――唄えば――雨に――唄えば――」

     ワン・フレーズを繰り返しながら幹也は歩く。
     頭の中には、もうヤマネのことはない。あるのは、里村・春香のことだ。
     図書室から飛び降り自殺をした春香のことを考える。
     今もなお考えるのは――死んだ瞬間、春香のことが好きだったからだと、幹也はなんとなく考えている。
     一瞬だけ退屈がまぎれるような――人を好きになれるような――幸せだと感じるような――
     不思議な感覚が、『あの一瞬』にはあった。
     人にとっては異常とも思える思考と記憶にたゆたいながら、幹也は家へと帰る。

    「雨に、唄えば――」

     唄いながら扉を開け、家へと入る幹也は気づかない。

    ――電柱の陰に隠れるように少女がいる。ワンピースをきて、栗色の髪の毛をした少女が。裸足のまま、じっと、幹也が入っていった家を見ている。

     ヤマネに、後をつけられ、家を知られたことに、幹也は気づかない。
     幹也の家を知り、幹也の部屋に電気がついたことを確認したヤマネは、楽しそうに笑いながらその場を去っていく。
     ヤマネの頭にある考えは、一つだけだ。


    ――お兄ちゃんは、ヤマネだけのものなの。



    (続)

    73: 名無しさん@ピンキー 2006/06/06(火) 02:28:32 ID:bJP1ejAS
    >>63
    やばい!!ヤマネがなんかツボすぎる。
    そしてまだ攻めには転じていないキモウトにも期待w
    個人的に

    「お兄ちゃんっ、昨日のコって誰かなっ!?」

    が相当キタw

    作者さんGJです!!

    103: 65の続き 2006/06/10(土) 00:56:48 ID:uj/kMvwy
     その日、珍しいことに、幹也は学校に行かなかった。
     その日、珍しいことに、喫茶店「グリム」にヤマネはいなかった。
     地下図書室には、いつもの姿をした、マッド・ハンターだけがいた。

    「おや、おや、おやまあ! これは珍しいわね。おサボリ?」
    「おサボリのお欠席だよ」

     言って、幹也はいつもの席に座った。いつもと変わらない制服姿。鞄には教科書と弁当が詰まっている。
     本当は、学校に行くつもりだったのだ。
     学校に行こうとして――そのまま、喫茶店「グリム」へと来たのだ。
     完全な気まぐれだった。
     完全な気まぐれだと、椅子に座るその瞬間まで、幹也自身もそう思っていた。

    「それでそれでそれで? きみはどうして学校を休んだの?」
    「同じように学校を休んでる君に言われたくないけどね――いや、そもそも、学校に『居る』の?」

     幹也の問いに、マッド・ハンターは唇の端を吊り上げて笑った。
     答える気はない、と笑みが告げている。
     幹也はため息を吐き、「それならば僕も答える必要がないな」と呟いて、
     ようやく、気づいた。

    「ああ、なるほど。死んだからだ」
    「――?」

     幹也の突然の言い分に、マッド・ハンターが首を傾げる。
     構わずに、幹也は独り言のように呟いた。

    「『先代』が死んでから、ちょうど半年だ」
    「ほう、ほう、ほう!」

     楽しそうなマッド・ハンターの声を、幹也はもはや聞いてはいない。
     頭の中にあるのは、『先代』との思い出だけだ。
     先代。
     十二月生まれの三月ウサギ――里村・春香。
     ちょうど一ヶ月前の放課後に、彼女は、図書室から飛び降りて死んだのだった。
     そして、それは、幹也にとっても特別な日だった。
     先代が死んだから、でも、三月ウサギになったから、でもない。
     生まれて初めて――『退屈でない』と思った日だからだ。


     


    104: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 01:06:52 ID:uj/kMvwy
    「君は、君は、君は――」マッド・ハンターが楽しそうに言う。「彼女が好きだったのかな?」「
    「彼女?」
    「『12月生まれの三月ウサギ』」

     いきなりとも言えるマッド・ハンターの問いかけに、幹也は悩む。
     傍から見れば、付き合っているように見えた――わけがない。
     幹也と春香の関係は、図書館の夕暮れ、誰もいないところだけだったのだから。
     今でも、幹也と春香の関係を知る人などいないだろう。葬式に出た、くらいだ。
     そして。
     実際の『関係』がなかったかといえば、NOだ。
     ヤマネにするような関係を、幹也は、春香としていた。
     12月生まれの三月ウサギ。
     12月に生まれたウサギは――死にやすい。
     その通りに、春香は、今にも死んでしまいそうな人間だったし、実際に死んでしまった。
     彼女が死んだ瞬間を思い出しながら、幹也は言った。

    「好きだよ」

     好きだった、ではなく。好きだ、と幹也は言う。
     その答えを聞いて、マッド・ハンターは笑う。

    「ふぅん、ふぅん、ふぅぅぅん。それも嘘かい?」
    「さあね」

     幹也は肩を竦める。本を探す気にはなれなかった。
     相変わらず退屈だ。
     そして、退屈でなかった一瞬を、思い出していたかった。
     里村・春香が死んだ瞬間を――唯一、退屈でないと思えた瞬間を。

    「ふむ、ふむ、ふぅむ。私も見たかったわ、その瞬間。もう一つだけ質問いいかな?」
    「駄目って言っても聞くんだろ?」
    「まぁねまぁねまぁぁね。それで、自殺した先代は――君が殺したの?」

     酷く核心的な、酷く確信的な問い。
     全ての前提を覆すような問いを、笑いながらマッド・ハンターは吐く。
     幹也は、その問いに、真顔で即答した。

    「――さあね」



    105: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 01:19:53 ID:uj/kMvwy

     結局、その日は、幹也は学校には行かなかった。
     ほぼ一日中、本も読まず、楽しいと、退屈ではないと思えた一瞬のことを思い出していた。
     思い出している間は――かすかだけど、退屈さが紛れるような気がしたからだ。
     席を立ったのは、十六時前。
     いつも喫茶店「グリム」に来る時間よりも、かなり早かった。
     ヤマネもいないので、家でゆっくりと思い返そう――そう思ったのだ。
     帰る道すがら、幹也は、ぼんやりと思考をめぐらせていた。
     帰ったら妹がいるだろうか、一昨日買ったケーキがまだ残っているだろうか。
     父と母は家にいるだろうか。時間が不定な家族は、いつ家にいるかわからない。
     いなければいい、いてもいなくても退屈なのだから、いないほうが静かだ――そう幹也は思った。
     そして、そんなことよりも、頭にあったのは。
     里村・春香のことだ。
     彼女の最後の言葉を、幹也は思い出す。

    『――幹也くん、私はもう疲れた』

     心の底から、疲れきった、生気の無い声。
     いつものように首を絞められながら、春香はいった。

    『――だから、お終いにしよ』

     それが、最後の言葉だった。
     その数秒後――春香は、図書室の窓から落ちて自殺したのだから。
     その光景を思い出して、幹也は小さく笑う。
     地面に咲いた赤い花。
     肉と臓物と血で出来たきれいな華を思い出して、幹也は歩きながら笑った。
     あの瞬間。
     あの瞬間だけは、退屈でなかったのだから。
     いまもなお退屈をかかえる幹也は、退屈でないときを思い返しながら、歩く。
     あっという間に家へとたどり着き、チャイムを鳴らした。
     ぴんぽん、という間抜けな音。
     誰も出なかった。そもそも、誰かが出るとは思っていなかった。とりあえず鳴らしただけだ。
     玄関を入り、ポケットから鍵を取り出し、ドアノブを掴み、

    「……あれ?」

     そこでようやく、幹也は異変に気づいた。
     ドアノブが、回ったのだ。
     鍵を差し込んでいないのに。
     鍵は――かかっていなかった。
     誰かいるのだろうか。チャイムに気づかなかったのか? そう思いながら、幹也はドアノブをひねり、
     扉を、
     開けた。


     ――そして幹也は、むせ返るような赤を見た。



    106: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 01:22:39 ID:G1P/sHbL

    なんか主人公が1番のヤンデレみたい?

    ところでキミキススレにヤンデレが襲来してるな

    107: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 01:26:49 ID:uj/kMvwy

     赤と紅と朱。臙脂、橙、茶。
     思いつくかぎりの、この世に存在する限りの赤が、そこにあった。
     それは、とある赤いものが、元からあった家具や壁や空気と触れ合って、変色した結果だった。
     もともとは、くすんだ赤。
     黒に近いような――赤。
     家の中は、完全に、赤に染まっていた。
     濡れた赤。
     まだ、乾ききっていない。
     幹也の家は、玄関に入れば、扉一枚向こうにリビングが見える作りになっている。
     そして、その扉は今、開けっ放しになって――扉の向こうには、赤が広がっている。 
     赤に塗れた世界を見て、幹也はなるほど、と納得した。
     ――これならば、チャイムに出ることもできないな、と。
     扉の向こう。赤い水溜りに沈むように、ばらばらの何かがあった。
     皮をはがれ、肉を抉り、骨を削り、臓物を取り出し。
     必要以上に――否、必要がないのに、ばらばらにされた、父と母の姿を、幹也は見た。
     そして、その奥。
     手足から血を流す妹と――その妹の神を掴み、楽しそうに笑う少女の姿を、幹也ははっきりと見た。
     普段の白いワンピースは、いまは赤く染まっている。
     この部屋と同じように――――溢れる血で、ヤマネは真っ赤に染まっていた。
     幹也は、いつものように、ヤマネに声をかける。

    「やぁ、ヤマネ」

     ヤマネは。
     右手に分厚いナイフを持ち、左手に妹の髪を掴んでいたヤマネは。
     まるで人形か何かのように、妹を放り投げ、血の海をばちゃばちゃと言わせながら、幹也へと近づいてきた。
     そして、真っ赤に染まった体と、真っ赤にそまった顔で、ヤマネは笑う。
     血に塗れ、右手に包丁を持ったヤマネは、死に囲まれた部屋で、満面の笑顔で言った。

    「おかえりっ、おにいちゃんっ!」

    (続)

    109: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 01:35:15 ID:thi7MeHr
    ヤマネまったてよヤマネ

    ちょっ
    キモウトもうお亡くなり!?そんなのヤダヤダ! 

    111: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 01:58:37 ID:GWU5lhqh
    鬼、キモウトが死んでルー!!

    112: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 02:03:47 ID:HPh6ODlY
    続きが気になって仕方が無い。

    113: 名無しさん@ピンキー 2006/06/10(土) 02:04:18 ID:thi7MeHr
    ヤマネヤバスと思ったが

    主人公が一番こわいお!

    173: 107の続き 2006/06/25(日) 02:32:12 ID:+sD7Pgg/

     ヤマネは――笑っていた。
     どうしようもないほどに、どうにもならないほどに、満面の笑顔でヤマネは笑う。
     その笑顔の向こうを幹也は見る。それ以外は見ようともしない。
     血に沈んだ家族も。壊れて散乱した家具も。割れた窓も。
     穏やかで、退屈だった日常の残骸を幹也は見ようともしない。
     血に濡れた笑顔だけを見つめている。

    「ただいま、ヤマネ。どうしてここに?」

     幹也は問う。
     どうしてこんなことをしたのか、ではなく。
     どうしてここにいるのか、と。
     その問いに、ヤマネは笑ったまま答えた。

    「だって、ヤマネはお兄ちゃんの妹だもんっ!」

     言って、ヤマネは包丁を放りなげてすりよってくる。
     手から離れた包丁が宙を回り、中ほどまで床に突き刺さった。
     血をぱちゃぱちゃと踏み鳴らしながら、ヤマネは幹也へと抱きついた。
     すぐ真下にある髪からは、いつもと変わらない少女の臭いと、真新しい血の臭いがした。
     その血の臭いも、部屋に満ちているそれと混ざり合い、すぐに分からなくなる。

    「ヤマネねっ、お兄ちゃんのために頑張ったんだよ?
     お兄ちゃんを閉じ込める、ニセモノの家族を倒してあげたの!
     ね、褒めて、褒めてっ!」

     傍から聞けば、錯乱しているとしか思えないヤマネの言葉。
     けれど、この場には『傍』に立つものは誰もいなかった。
     血に濡れた部屋に立っているのは、ヤマネと幹也の二人だけだ。
     力の限り抱きついてくる少女を、幹也はそっと抱き返して言う。

    「そう。――がんばったね、ヤマネ」

     答える幹也の顔は、邪悪に笑って――などいなかった。
     笑ってもいない。
     怒ってもいない。
     いつもと変わらぬ、退屈そうな表情のまま、幹也はヤマネを抱きしめていた。

    177: 173の続き 2006/06/25(日) 02:49:15 ID:+sD7Pgg/

     腕の中、ヤマネが猫のように喉を鳴らし、頬を摺りつけてくる。
     ふと、幹也はその細い首に手をかける。
     キスをしたい。そう思う反面、このまま首を絞めてしまいたくもなった。
     そうすれば、少しは暇ではなくなるだろうから。退屈が紛れるだろうから。
     この異常な状況においてなお――幹也は、どこまでも平常だった。
     けれども、幹也が何をするよりも、ヤマネの動きの方が早かった。

    「お兄ちゃん、そろそろ行こっ!」

     幹也から離れ、首に添えられた手を握り、縦にぶんぶんと振ってヤマネが言う。
     上下に振られた手を追いながら、幹也は呟くように答えた。

    「行くって――どこに?」

     当然といえば当然の言葉に、ヤマネは「決まってるよっ!」と前置き、

    「こんなところ、もういらないよね? ね、ヤマネと一緒にいこっ!」

     ――こんなところ。
     その言葉を聞いて、幹也は部屋の中を見回してみる。
     二人分の死体と、一人の死に掛けと、血と死と破壊で満ちた家。
     すでに終わってしまった場所。
     成る程、もうここは要らないな、と幹也は内心で納得する。
     退屈な家から離れて、殺人鬼の少女と退屈な逃避行。
     それも暇つぶしだ、とすら思った。

    「そうだね。行こうかヤマネ」

     ヤマネの手を握り返し、幹也は言う。
     その言葉を聞いて、ヤマネは、これ以上ないくらい嬉しそうに笑った。

    「うんっ! ここも、喫茶店もヤマネいらない!
     お兄ちゃんがいればそれでいいよっ!」

     ヤマネは手を繋いだままぴょんと跳ね、幹也の隣に並ぶ。
     繋いだ手の温もりと、血に濡れる感触を感じながら、幹也は踵を返す。
     視界の端に、重症の中まだ動いている――最後の生き残った家族が見えた。
     もはや家族ではなくなった少女に向かって、幹也は言う。

    「――ばいばい」

     それが、別れの挨拶だった。
     幹也も、ヤマネも、振り返ることはなく。

    「雨に――唄えば――」
    「唄え――ば――」

     二人仲良く歌いながら、家の外へ、夜の街へと消えていった。


    190: 177の続き 2006/06/25(日) 22:39:19 ID:OwitErRI

     ――そして、半年後。

     街へと消えていったはずの幹也は、今、喫茶店「グリム」地下の図書室にいる。
     机の上でぐったりと放心している少女――グリムに覆いかぶさるようにして。
     そこにいるのは、ヤマネではない。
     机の反対側にはマッド・ハンター。胸の中にはグリム。
     かつて幹也の傍にいたヤマネは、此処にはいなかった。

    「ふむ、ふむ、ふぅむ! それにしても君は本当にどうしてここにいるのかな?」

     行為が終わったのを見計らって、マッド・ハンターが口を挟んだ。
     その声は、いつもと変わらない嬉々としたものだ。ヤマネがいたころから。あるいはその前から。
     そして、これから先も変わらないであろう笑顔に向かって、幹也は答える。

    「退屈になったから。それだけだよ」

     簡潔な答えに、マッド・ハンターはあは、あはは、あはははと笑い、

    「君はいつもそれだよね。退屈、退屈、退屈! 
     ――その退屈を紛らせてくれたヤマネはどうしたのかな?」 

     確信的な、あるいは核心的な言葉を聞いて、幹也は微笑んで答える。

    「君が知らないわけないだろ。ニュース見たよ。
    『少年少女謎の失踪』。『殺人カップル』『少年死亡説』、他には何があったっけ」
    「『悲惨な事件の生き残り・須藤冬華の賢明なリハビリ』。
     ニュースに出たおかげで、三月ウサギ君の正体を知ったのよね」
    「ここで名前を呼ばないのは嬉しいけどね。で、どういうことなんだよ」

     なにがかな? とマッド・ハンターはとぼける。
     とぼけた顔は笑っている。解っていて、彼女は笑っているのだ。
     そのことを悟っている幹也は、ため息と共に言う。

    「どうして――死んだはずのヤマネが、失踪扱いになってるんだよ」

     その言葉に、マッド・ハンターはこの上ない笑みを浮かべた。


    217: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/06(木) 19:48:37 ID:JKeN3p5I
    >>190の続き
    「決まってる、決まってる、決まってるだろうとも。
     君は知っているし、私も知っている。
     なぜなら――私はあそこにいたんだよ?」

     確信をつく言葉を、この上なくさらりと、マッド・ハンターは吐いた。
     その言葉は、つまるところ、

    「全て、知ってるってことか」

     幹也の言葉に、マッドー・ハンターは両手をあげ、おどけたように笑う。

    「全て、全て、全てと! 全てを知るものはいないよ。
     私が知っているのは、君とヤマネ君の顛末くらいだ」
    「僕にとっては、それがすべてだよ」
    「そうとも、そうとも、そうともさ! 君は全てを失い、全てを手に入れた」

     言って。
     マッド・ハンターの顔から、笑みが消えた。
     初めて――幹也が知る限り、初めて――真顔になったマッド・ハンターは立ち上がる。
     手にもった杖で、こつん、こつん、と床を鳴らしながら、彼女は歩き始めた。
     まるで、名探偵が解決編を始めるかのように。

    「あの日、君とヤマネは、手に手をとって逃げ出した――」

     唄うような言葉を聞きながら、幹也はその光景を鮮明に思い出す。
     血と汚濁に塗れた少女を抱き寄せた夜のことを。
     月明かりの中、二人で手を繋いで歩き出した。行くあてなんてどこにもなかった。

    「もちろん簡単に逃げ切れるものじゃない――」

     ヤマネも幹也も、お金も何も持たなかった。
     お互い以外には何も持たず、駆け落ちのような逃避行だった。

    218: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/06(木) 19:50:07 ID:JKeN3p5I

    「私たちみたいな人間が好む場所、廃ビルや廃工場。その一つで、君たちは身を休めた――」

     出来かけたままの鉄筋ビル。朽ちることもないのに、終わってしまった場所。
     始まる前に終わった世界。
     そういうものを彼女たちは愛していた。
     幹也は、どちらでもよかった。退屈をしのげるのならば。
     むき出しのコンクリートの上に座って、二人で身体を休めた。

    「ヤマネは当然のように愛を求めて――」

     お兄ちゃん、抱きしめてっ! ぎゅって!
     ヤマネはそう言って抱きついてくる。

    「君は当然のようにそれを受け入れて――」

     幹也は抱きしめる。いつものように。
     強く抱きしめて、舌を動かす。食べるように。
     けれど――

    「けれど、ヤマネは、そこから先を求めた――」

     抱きしめていたヤマネが身を離す。
     その顔は、すこしだけ膨れたような、恥かしそうな顔。
     首を傾げる幹也に向かって、ヤマネははっきりという。
     ――ちゃんと、抱いて。ね。
     そして、スカートをたくしあげる。
     初潮がきたかのような、返り血で濡れた、下着のない下腹部。
     そして――

    「そして――君らは、一線を越えた」

    219: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/06(木) 19:56:35 ID:JKeN3p5I


     幹也は、ヤマネを抱いた。
     初めての性交。返り血とヤマネ自身の血が混ざり合い、白い太腿を伝っていく。
     身体から血が零れるかのように。
     抱きしめた身体は柔らかく、細く、壊れてしまいそうだったことを幹也は覚えている。
     痛いはずのなのに、最後まで、ヤマネが笑っていたことを覚えている。
     そして。
     一線を越えて。

    「ヤマネは一線を越えて、さらなる幸せを得た。
     問題は君だ――君もまた、一線を越えてしまった」

     一線を越えて。
     一線を越えて。
     一線を越えて。
     一線を越えて。
     一線を越えて――



    「――一線を越えて、君が、ヤマネを愛してしまった」


     こつん、と、杖の鳴る音が、すぐそばで止まった。
     見上げる。すぐそこに、マッド・ハンターがいた。
     口元は笑っていない。それなのに、その瞳は、堪えようもなく笑っているような気がした。

    「勿論、勿論、勿論のこと――これは推測だよ。
     君の中で何があったのか、私には判らないしね。
     あくまでも傍から見た、私の推測。
     それを踏まえたうえで聞くけど――君、彼女の事を、愛したんだろう?
     さんざん遊んでおきながら――初めて、本当に、心の底から愛したんだろう?」

     幹也は。
     心の中に退屈を飼う、誰に対しても情動を抱かないはずだった少年は。
     マッド・ハンターの顔を見返して、はっきりと言った。

    「――その通りだよ」

     衝撃的な告白にも、マッド・ハンターはたじろぐことはない。
     むしろ、何事でもないかのように、さらりと答えた。

    「だから、君はヤマネ君を殺したんだね?」

     そして、幹也もまた。
     何事もないように、さらりと、「そうだよ」と答えた。


    220: 名無しさん@ピンキー 2006/07/06(木) 20:14:37 ID:RUc4hVbb
    リアルタイムktkr

    221: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/06(木) 20:18:03 ID:JKeN3p5I


     マッド・ハンターは続ける。

    「愛しまったから、殺した。それとも、殺したから愛した?」

     幹也は答える。

    「一緒だよ。僕にとってはね。自覚したのはここ一年だけど」
    「シザーハンズみたいな男だね、きみは!」

     そう言って、マッド・ハンターは笑う。
     幹也は笑わず、思い返した。
     あの日、あの夜のことを。

     自分の胸の中で喘ぐヤマネ。身体を突き入れるたびにがくがくと揺れる小さな身体。
     ――自分のことを好きだから、他の全てを排除しようとした。
     ――自分のことを好きだから、家族を殺した。
     ――自分のことを好きだから、彼女は今、ここにいる。
     身体を重ね、彼女の心について考えて、初めて――愛しいと思った。
     そしてその瞬間には手が伸びていた。いや、その瞬間より前に、手は伸びていた。
     ヤマネの首へと。
     そして、愛しいと思った瞬間は。
     自分の胸の中で、ヤマネが動かなくなった瞬間なのだから。
     自分のために生きた少女。自分のために死んだ少女。
     その骸を抱きしめて、幹也は初めて――彼女を好きだと思ったのだ。
     好きだと思えた。
     退屈でないと、思ったのだ。

    「君は、ヤマネのことが好きだったのかな?」
    「好きだよ」

     幹也は答える。
     過去形ではなく、今も好きだ、と。
     その言葉を聞き、マッド・ハンターは鬼の首でもとったかのように言う。

    「君の『先代』――12月生まれの三月ウサギに対しても、君は同じように言ったね。
     好きだ、って。それはつまり、つまるところ、そういうことなの?」

     嘘を言っても意味がないので、幹也は正直に頷いた。
     それだけで、充分だった。
     その意味に気づいているマッド・ハンターは、ここでようやく、けたけたと笑い出した。
     もはや笑いを堪えることができなかったのだろう。

    222: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/06(木) 20:22:06 ID:JKeN3p5I

    「傑作、傑作、傑作だ! 彼女を殺したも君か!」
    「半分は事故だけどね」

     いつものように、窓辺で会って。
     いつものように、首をしめて。
     いつもと違って、転落した。
     それだけのことだ。

    「文字通り『退屈しのぎ』か! だから君は彼女を好きになったわけだ。
     そして、次の三月ウサギになったのね。
     シザーハンズよりも質が悪いじゃない!」
    「人のこと言えるのかよ。質が悪いのは一緒だろ、マッド・ハンター。
     話聞く限りじゃ、後つけて死体始末したんだろ。
     僕は放置して帰ったのに」

     その言葉に、マッド・ハンターはわざとらしいため息を付いた。
     やれやれ、とばかりに肩を竦める。
     その仕草が少しばかり気に入らなかったけれど、幹也はつとめて無視した。
     マッド・ハンターは子どもに言い聞かせるかのように、

    「仕方がない、仕方がない、仕方がないよ。
     私は『首切り女王』のために働く、しがないマッド・ハンター。
     狂気の帽子屋、兇器の狩人。死体専門だけどね。
    『狂気倶楽部』の『外』で起きた問題の後始末係さ」
    「いやな役だよな、それ。楽しいか?
     できれば――僕に関わってほしくない役だ」
    「『裁罪のアリス』のような処刑人を送り込まれないだけありがたいと思いなよ。
     それにもちろん、役得もある」

     言って、マッド・ハンターはくるりと踵を返した。
     幹也から離れて、さらにもう一回転する。
     距離を取り、向かい合って、マッド・ハンターはポケットに手を突っ込んだ。
     そこから取り出したのは、小さな透明のペンケース。
     ただし、中に入っているのは筆記用具ではない。
     入っているのは――長い、栗色の髪の毛。

    「という、というわけで、ということだよ。私も私なりに役得がある。
     君は私より、自分のことを考えるべきだと思うよ。
     また逃避行を続けるのかい?」

     マッド・ハンターの言葉に、幹也は「あー」と厭そうな声を漏らす。

    「どうせ退屈だし……しばらくここにいてもいいけど。
     日本の警察って有能らしいし、」

     また逃げるかな、そう言おうとした。
     その言葉が――言えなかった。

    223: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/06(木) 20:24:35 ID:JKeN3p5I

    「――大丈夫だよっ、お兄ちゃん!」

     言ったのは、幹也でもマッド・ハンターでもなかった。
     二人のどちらでもなく、この場にいる最後の一人の声。
     場にそぐわない、能天気なほどに明るいグリムの声。
     その声に、続いて。

     ――ズド、と。

     厭な、本当に厭な音がした。

    「え――あ、?」

     幹也は、ゆっくりと、ゆっくりと顔を下ろす。
     そこにいるのは、グリムだ。生きている少女。
     けれど。
     揺らぎ始めた視界のせいで、その姿が、なぜだかヤマネとかぶさって見えた。
     そう――視界が、揺らいでいった。
     思考と同じ速度で、景色が歪んでいく。
     その原因を、幹也は、不安定な中で確かに見た。

     ――自分の腹に突き刺さった、小さなナイフを。

     おかしなことに、痛みはまったくなかった。ナイフは確かに腹に刺さっているのに、痛いとも思わない。
     ただ、熱い。ナイフの柄を伝ってぽたり、と血が流れ出る。引き抜くまで、血は大量に流れはしない。
     熱い。ナイフが熱を持ったかのように熱い。どうしようもないほどに、熱い――
     そして、目の前には、温度を感じさせない――能面のような、グリムの笑み。

    「だって、お兄ちゃんはもうどこにもいかないんだもんっ! ずっと、ずっとグリムのものだよ」

     グリムは二本目のナイフを取り出す。
     そのナイフが、股間ぎりぎりの太腿に、ホルスターのようにしまわれたものだということにようやく気づく。
     倒錯行為は、性行為ではない。あくまでも、相手を捕食するかのような愛撫。
     普通の性行為をしていれば気づいたであろうそれに、幹也は気づかなかった。
     気づいたときには、遅かったのだ。
     幹也の視線に気づいたのか、グリムは二本目のナイフをちらりと見て、

    「最近物騒だもんねっ! でも大丈夫、お兄ちゃんはグリムが守ってあげるよっ!」

     言って――グリムは、二本目のナイフを、幹也の脚に突き刺した。


     ――今度こそ、激痛がきた。


    254: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/11(火) 18:57:10 ID:/EufeoYV

    「雨に――唄えば――」

     いつものようにいつもの如く幹也は歌う。唄のワン・フレーズ。雨に唄えば。
     狂ったオルゴールのように、退屈を紛らわせるかのように、幹也は歌う。

    「――雨に――唄え、ば――」

     唄うたびに腹と足が痛む。抜くと血がこぼれるせいで、刺したまま抜いていない。
     放っておけば死んでしまうだろう。
     抜けば致命傷になるだろう。
     適切な治療をすれば、助かるだろう。
     けれど、幹也は、そのどれもを選ばなかった。
     椅子から転げ落ち、本棚に背を預けて座り、ただ唄う。退屈しのぎの唄を。

    「あ、めに――うたえ――ば――」

     腹に力をいれず、喉だけで唄うので声は小さい。
     それでも身を動かすたびに、腹と足の傷が痛んだ。
     足に刺さっているせいで、動くこともできない。
     そして――地下図書室にいるもう一人。
     マッド・ハンターは、にやにやと笑ったまま、動こうとはしなかった。
     助けることもなく、ただ、見ている。
     見ている、だけだ。

    「どうして、どうして、どうしてなのかな? 君がその唄を好きなのは」

     椅子に座ったままマッド・ハンターが問う。
     幹也は顔だけを動かして、

    「あの映画でさ……唄いながら蹴り殺すシーンがあるんだよ」

     シンギング・イン・ザ・レイン、ではなく。
     時計仕掛けのオレンジ。
     主人公が「雨に唄えば」を口ずさみながら、まったく無関係の、罪もない人間を、愉快げに蹴り殺すシーン。
     その情景を思い浮かべながら、幹也は続ける。

    「あれが楽しそうでね――全然、退屈そうじゃなくて。
     そう思ったら、癖になってたんだよ」
    「そうかい、そうかい、そうなのかい。それで、君は退屈から逃げられたの?」
    「まさか」

     幹也は笑い、

    「退屈だよ。今もね」

    255: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/11(火) 18:59:03 ID:/EufeoYV

     マッド・ハンターも笑って、「死に掛けてもそれなのね」と笑った。
     幹也は顔をマッド・ハンターから逸らす。
     視界にあるのは、本棚だ。
     かつて狂気倶楽部にいた人間が書いた小説。あるいは日記。
     自分も何か書こう。そう思った。
     ただし、すべては生き延びればの話で――このままだと自分が死ぬことを、幹也は自覚していた。
     
    「君はどうするんだ」

     ふと思い立って、幹也はそう問いかけた。
     顔を再びマッド・ハンターへ向けると、不思議そうに首を傾げているのが見えた。

    「なにが、なにが、なにがだい? どうすると言われても。
     もう少ししたら、『盲目のグリム』よろしく帰ろうかな」
    「あの子……やけにあっさりと帰ったけど。なにがしたかったんだ?」
    「君を殺したかったんだろう、殺したかったんだろうね。
     そうすれば、自分だけのものにできるから。
     ……いや、でも違うかもしれないわね。
     単に君の両足をぶった斬って、二度と離れなくするのかも」

     ――どちらにしろ、彼女じゃない私には判らないよ。
     マッド・ハンターはそう言って、言葉を切った。
     幹也を刺したグリムは、あっけないほどに外へと出ていってしまった。
     帰ったのか、何か用事があるのか、幹也には分からない。
     ただ、ああまで言っていた以上、戻ってくるのだろう。
     そして、戻ってきたときに幹也が死んでいても――それでも構わず愛するのだろう。

    「――で、きみはどうするんだよ。
     ヤマネにしたみたいに、死んだ僕の髪の毛でも持っていくのか?」
    「まさか、まさか、それこそまさかだよ!」

     両手をあげてマッド・ハンターは笑い、

    「私は死人の髪を集めて『帽子』を作る
     狂った狩り人(マッド・ハンター)にしてイカレ帽子屋(マッド・ハッター)だけどね。
     あいにくと、狩られるのはごめんです」
    「狩られる……? グリムにかい」

     マッド・ハンター答えずに、ただ笑うばかりだった。
     幹也は肩を竦めようとして、腹に刺さったナイフが動き、痛みに「う、」と声を漏らしてしまう。
     できることなら、大声で叫んで、痛みに泣きまわりたい。そう思った。
     そうしなかったのは、それが単に――面白くないことだからだ。
     そんなことをしても、退屈は紛れない。
     殺したいなあ、と幹也は思った。先輩のように。ヤマネのように。

    256: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/11(火) 19:00:17 ID:/EufeoYV

    「愛したいなあ……」

     けれど、口から漏れた言葉は、まったく別の言葉だった。
     あるいはそれは――幹也にとっては、同じ意味だったのかもしれない。

    「ああ、うん。そうだね――愛したい」

     幹也の心を占めるのは、退屈だ。
     けれど、その退屈に混じって――その思いがあった。
     今更ながらに、理解する。
     愛が欲しいのだと。
     そして、愛されたからこそ、里村・春香は死んだのだと。
     今更ながらに、理解する。

    「雨に――唄えば――」

     再び唄い出す幹也。
     その唄を聴きながら、さりげなく、本当にさりげなく、マッド・ハンターが言った。

    「そういえば、そういえばだけれどね。最近グリムの他にもう一人、新人が来たわよ。
     君と同じように、その唄が好きな人」

     へぇ、と幹也は気なく返事をする。
     マッド・ハンターも、さぞかしどうでもいいことのように、言う。

    「『女王知らずの処刑人』。八月生まれの三月ウサギ。君の後輩だよ」

     その言葉に、答えるかのように。
     喫茶店『グリム』の入り口扉。
     その扉が、ゆっくりと、開いた。

    257: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/11(火) 19:02:28 ID:/EufeoYV
    気付けば結構長くなっていました。
    ここまで読んでくださってありがとうございます。
    残り一話で、とりあえずは終了……予定です。

    268: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/13(木) 18:34:00 ID:GXffaKv/

     夜の路地を歩きながら、グリムは楽しそうに口笛を吹く。
     その曲は『雨に唄えば』の一節で、壊れたラジオのように、サビの部分だけをループしている。
     それは、厳密には彼女の癖ではない。
     彼女の『お兄ちゃん』の癖だ。

    「、、、――、……、――♪」

     お兄ちゃんの名前を、グリムは知らない。
     五月生まれの三月ウサギ。その通り名しか知らない。
     名前だけではない。それ以外のことについても、グリムは殆ど知らない。
     どこに住んでいるのか、とか。
     どんな人間なのか、とか。
     そういった、普通真っ先に知るべきであろうことを、グリムは知らない。
     知ろうともしなかった。
     初めて会った瞬間、『あの人がお兄ちゃんだ』と決めたのだ。
     そして、グリムにとっては、それで十分だった。
     ようするに、一目ぼれだったのだろう。
     ほんの少し、歪なだけで。

    「――――――、……、、……♪」

     狂気倶楽部に来てよかった、とグリムは思う。
     半年前に死んだ従姉妹、その子の日記帳から、グリムは狂気倶楽部のことを知った。
     日記帳というよりは、それは――小説だったけれど。
     歪な愛情を記した小説。
     そしてグリムは、その小説に出てくる『お兄ちゃん』という人物が気に入ってしまった。
     従姉妹同士、趣味が似ていたのかもしれない。
     そういうわけで――グリムはこっそりと喫茶店『グリム』を訪れ、狂気倶楽部の一員となった。
     マッド・ハンターに話したことも嘘ではないけれど、本当でもない。
     ただ、そんなことはやっぱり――どうでもいいのだ。
     彼女にとって一番大切なのは愛情であり、それ以外はどうでもいいのだから。

    「……、……♪」

     唄いながら、グリムは考える。
     お兄ちゃんのことを。
     もう何人になるか判らない兄のことを。
     本当の兄は死んでしまったし、その次の兄は死んでしまったし、その次の兄も死んでしまった。
     ヤマネと同じように――自分だけのものにしなくては、気が済まないのだ。
     かつての兄のことを、グリムはもう覚えていない。
     今頭にあるのは、新しいお兄ちゃんのことだけだ。
     足を両方とも切ってしまって、どこにもいけないようにしよう。そう思った。

    「――、……、、、――♪」

     グリムは歌い、


     ――その歌が、途中で途切れた。


    269: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/13(木) 18:34:55 ID:GXffaKv/

     何が起こったのか、グリム自身にも分からなかった。
     唄っていたはずだ。今も唄おうとしている。けれど、口からは声がでない。
     ひゅう、ひゅうという、かすかな息が漏れるだけだ。
     何が起きたのか、グリムには分からない。
     夜の路地は暗くて、街灯の光は頼りなくて。
     その少女が持っているナイフは、まるで血がこびりついたかのように真っ黒で。
     だから――自分の喉にナイフが刺さっていることに、グリムは、すぐには気付かなかった。

    「その歌は――私と、兄さんだけのものです」

     声は、ずいぶんと下から聞こえた。
     グリムは、首を動かすこともできず、視線だけで声のした方を見る。

     ――闇色の少女が、そこにいる。

     黒い髪、黒いセーラー服、黒いプリーツスカート。手に持つ細く長いナイフも、また黒い。
     全体的に黒いせいで、闇夜に違和感なく紛れ込んでいる。
     声が低い理由は簡単だ。その少女は、車椅子に乗っていた。
     両足は義足。左手も義手。
     ただ一つ、唯一右手だけが生身で――その右手で、ナイフを持っていた。

    「だから、最初は喉」

     言葉と共に、その右手が閃く。
     喉に刺さっていたナイフが横に引かれ、皮膚と肉と動脈を根こそぎながら抜けていった。
     一瞬の、間。
     心臓が一回鼓動する時間。
     その時間が過ぎた瞬間――グリムの喉から、一気に血が噴き出た。
     角度の都合上、当然のように少女にも血は注ぐ。常人なら噎せ、吐いてしまいそうな血を浴びても少女はどうじない。
     薄く、笑っている。
     黒い服が血を吸い、さらに黒くなる。

    「初めましてグリムさん。私は八月生まれの三月ウサギ。
     ――知ってましたか? 兄さんを、兄さんって呼んでいいのは、私だけなんですよ。
     あなたと違って、本当の妹なんですから」

     その言葉に、グリムは答えられない。
     噴出す血と共に――彼女の意識もまた、ほとんど消えかけていた。
     命の灯火は当然のように消え去り、もはや考えることなどできるはずもない。
     うろんな瞳で、三月ウサギをグリムは見る。
     その視界が、かしいでいく。
     自分が倒れていくことに、グリムは、もう気付かない。

    270: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/13(木) 18:36:00 ID:GXffaKv/

    「その腕で兄さんに触れたんですね――だから、次は腕」

     倒れ掛かったグリムの脇に、三月ウサギはナイフを沿える。
     そして、地面に倒れようとする体の勢いを利用し――ナイフを力の限り上へと切り上げた。
     三つの力が同時に働き、グリムの腕がもげる。歪んだ間接でかろうじて繋がっているくらいだ。
     倒れるさいにその腕を背中側に巻き込み、ほとんど千切れてしまう。
     腕を失っても、グリムに痛みはない。熱いとも、寒いとも感じない。
     少し身体が軽くなった――そんなことを、ぼんやりと思う。

    「足がなければ兄さんのところにいけないですよね――だから、次は足」

     車椅子から三月ウサギが降りる。義足はうまく動かないのか、四つんばいになってグリムに近付いた。
     右手には、変わらず、ナイフがある。
     それを一度ぶん、と振い、こびりついた血と肉片を払って――そのまま、突き下ろした。
     グリムの、足へと。
     手の力だけなので、足は千切れはしない。たとえ生きていても、二度と使えなくなるだけだ。
     切り口からは、血がほとんど零れない。
     それはもう、心臓に蓄えられていた血が、あらかた喉から出て行ってしまったことを意味していていた。
     何もしなくても、グリムは死ぬだろう。
     それでも、三月ウサギは、止まらなかった。
     血たまりの中を四つんばいで歩き、グリムの身体に山乗りになって見下ろした。

    「いやな目ですね。私をこんな身体にした、あの子もそんな目をしていました」

     グリムは、三月ウサギを見上げている。
     その目は、ほとんど死人のそれだ。何も映すことのない、ガラス玉のような瞳だ。
     その瞳に見えるように、三月ウサギは左手を掲げた。
     黒い義手。神経の通わない、動かすことのできない、左右のバランスを保つだけのような――意味のない義手。
     その指先は、まったく不必要なほどに、鋭い。
     三月ウサギは左手を高く掲げ、

    「だから、次は、目です」

     力の限りに、振り下ろした。
     グリムの瞳に向かって。
     尖った指がグリムの瞳に突き刺さり、そのさらに奥にまで突き進む。
     グリムも、三月ウサギも、痛みを感じない。
     痛みを感じるような機能は、もはや残されていない。
     ゆっくりと、三月ウサギは左手を引き抜く。つぶれた眼球と千切れた神経がついてくる。
     グリムの顔に、二つの穴が開いていた。
     その姿を見て、三月ウサギは「盲目的な『盲目のグリム』が、本当に盲目に――」と嘯いた。

    「あの子のこと、怨んではないんですよ。死を見て、私は兄さんと同じところへといけた。
     愛する兄さんを、本当に理解することができた。
     だから、あの子には感謝すらしているんです――私の手で、殺してあげたかったくらいに」

     その言葉を聞く、もう、グリムはすでに死んでいたけれど。
     その心臓、心がある位置に、ナイフを突き立てた。
     最後の『心』を殺すかのように。
     横に倒して落としたナイフは、肋骨の隙間をすべり、心臓に突き刺さり――反対側へと貫通した。
     まるで昆虫のように、グリムの身体が、コンクリートへ縫い付けられる。
     両手両足をもがれ、喉を切り裂かれ、地面に縫い付けら、大量の血に塗れる死体。
     その上にまたがって――血まみれの三月ウサギは微笑んでいた

    271: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/13(木) 18:38:01 ID:GXffaKv/
    「あなたは代わり。兄さんにとって『私』の代わり。
     あなたは代わり。私にとって『ヤマネ』の代わり。
     そしてあたなは死体に変わる。
     さようなら、誰でもないあなた」

     別れの言葉は、それだけだった。
     そこにはもう、グリムはいない。
     誰のものでもない――ただの死体があるだけだ。

    「――雨に、唄えば――」

     三月ウサギは楽しそうに唄い、ぴちゃぴちゃと、音を立てながら四つんばいで歩く。
     まるで、雨の中を歩いているかのようだった。
     紅色の水溜りの上を、唄いながら、三月ウサギは行く。

    「雨に――唄え、ば――」

     唄い、再び車椅子に乗る。特注の、漆塗りの車椅子。両親の保険金で買ったものだ。
     右手だけで操作できるようになっているのは、正直にいえば楽だった。
     あの事件の後遺症で、満足に動くのは、右手だけだった。
     それでも、別に構わなかった。
     自分は生きていて――生きている限り、兄と愛し合うことはできるのだから。

    「――雨に――唄えば――」

     唄いながら、車椅子を動かす。
     目的地は、喫茶店『グリム』――そしてその地下図書室だ。
     マッド・ハンターと名乗る女性にお礼を言おう、と三月ウサギは思う。
     狂気倶楽部までたどり着いたのは実力だけれど――その後の顛末などを教えてくれたのは、彼女だからだ。
     あれが、何の目的を持っていたのか、三月ウサギは知らない。
     知ろうともしない。
     兄と自分の間を邪魔するなら殺す。それだけしか思わない。
     女王――誰か――に命令されたからではなく。
     自分と兄のために、処刑をする。それが八月生まれの三月ウサギなのだから。

    「――雨に――――唄え――ば――」

     唄いながら複雑な路地をさらに奥へと進み、三月ウサギは扉の前に辿り着く。
     喫茶店『グリム』の入り口扉へと。
     その先には、兄がいる。
     地下には、マッド・ハンターと、愛しい兄が、テーブルを囲むようにしてまっている。
     ――愛しい兄さん、今行きます。
     心の中で、そう呟く。
     扉の向こうには――まるで、お茶会でもするかのように、彼らが待っている。
     一人欠けて、また一人。
     減って増えて同じ数。
     何人死のうと――お茶会が終わることはない。
     三月ウサギは思う。自分もその一員になるのだ、と。
     ――だから――愛して、くださいね。
     紅色の唇が、艶やかに微笑み。
     血に濡れた指先が、扉のノブへとかかる。
     そして三月ウサギは――狂気倶楽部へと扉を開けた。

    272: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/13(木) 18:38:33 ID:GXffaKv/




     お茶会は、終わらない。



       《続かない》


    273: 名無しさん@ピンキー 2006/07/13(木) 19:17:26 ID:NomlNmlc
    うぁああああああああああああああ(||゚Д゚)
    最後でキモウトかぁああああああああああ!!!

    274: 名無しさん@ピンキー 2006/07/13(木) 19:46:36 ID:vxzbaCS8
    キモウトGJ
    最後の最後で輝いてくれた!

    275: 名無しさん@ピンキー 2006/07/13(木) 19:57:35 ID:ljo4e5aa
    時計仕掛けのオレンジもキャロルも好きな俺のツボを攻めまくりだよ。
    感動した。

    276: 名無しさん@ピンキー 2006/07/13(木) 22:43:09 ID:mZ9pZacb
    ヤーンーデーレー―
    最っ高ぅ!!

    277: 名無しさん@ピンキー 2006/07/13(木) 23:10:45 ID:KdnqYC6i
    お疲れ様でした!!
    GJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJ

    278: 終わらないお茶会 ◆msUmpMmFSs 2006/07/13(木) 23:23:51 ID:GXffaKv/
    ・蛇足かもしれないけどあとがき。

    ――お茶会は終わらず、続かず、コーカス・レースのようにぐるぐると回り続けます。

    なんだかんだで70kbほどの長い作品、最後まで読んでくれてありがとうございました
    気付けばヤンデレというよりは、青臭く発狂した少年少女のサイ娘な恋愛話に。
    途中間があいたりしたけれど、最後まで書けてほっとしてます

    シチュエーション的には修羅場嫉妬でもおかしくはないけれど……
    個人的にはサイ娘な登場人物たちがメインなのでここで最後まで書きました
    主人公が狂ってたり妹はやっぱりキモウトだったり、書いてて楽しかったことは確かです

    今後は未定。まったくの新作を書くか、なにも書かないか。
    あるいは『帽子屋』や『キャプテン・フック』、『グリザベラ』などの別キャラメインの同世界話を書くか
    スレ落ちるのももったないないので、他の神がくるのを待ちつつ、多分のんびり書きます。

    最後に。
    こんな最後まで読んでくれた人ありがとう! 乙!

    279: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 00:18:41 ID:kkRsaLT9
    もっとよみたいよおぉぉおぉぉぉおぉぉぉお

    280: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 00:46:24 ID:c57XrEjx
    うおおおおおおおおおおおおお!!
    お疲れ様でした!!続編を凄まじく楽しみに待ってます!!!

    281: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 01:54:46 ID:R1SphgAw
    この世界観は一つの話で終わらすには惜しいな
    是非続編ORスピンオフを

    282: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 03:49:46 ID:v6wbVNuE
    結局主人公は死んだんだろうか……と蛇足的かつ無意味な考察をしてみる。


    …なにはともあれ。GJGJGJGJGJGJGJ!!個人的に貴方の文体が好きでしょうがない!是非とも同一世界の別モノを!!
    これだけ世界観が統一されてるならもったいなさすぎる!!

    283: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 17:11:06 ID:MIra5z9z
    ヤマネぇええええ!!!

    作者様お疲れ様でした!!

    284: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 19:03:24 ID:t/ZIy26r
    ヤマネとキモウトとマッドハンターがいかすね。

    主人公もいい。
    終わっちゃうのが惜しい…

    285: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 19:04:24 ID:R1SphgAw
    裁罪のアリスも是非出して欲しい

    286: 名無しさん@ピンキー 2006/07/14(金) 23:51:06 ID:kkRsaLT9
    もっとマッドたんを
    むしろマッドたん視点で何か物語を・・・

    287: 名無しさん@ピンキー 2006/07/15(土) 00:08:55 ID:UY7kjI6n
    主人公は死んだのか・・・?

    288: 名無しさん@ピンキー 2006/07/15(土) 02:49:16 ID:/oO7xalw
    設定が神すぎ
    俺には絶対浮かばないよ(´・ω・`)

    「【エロ小説・SS】サイコパスな俺と、3人のヤンデレ妹たちの物語はもちろんハッピーエンド・・・・・・・・・・・・・・・」終わり

     

    な、なんやこれ?

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