前回のサララ視点のお話。
エロ描写が少なめなので長いけど一気に。
このシリーズが好きで面白い話が読みたい方は是非に。
■所要時間:30分 ■約26932文字
アブっぽいやつ寄ってく?
「【エロ小説・SS】ダンジョンで呪いをかけられた僕がお姫様のような美少女・マリーになった件wwwww7発目」開始
ベッド脇のテーブル。そこに置いたベッドスタンドの淡い明かりが私の体を舐めあげ、わた飴のような影が広がっていく。
うつ伏せになってベッドに顔を埋める私。マリー様が買ってくださったキングサイズのベッドは、そんな私を柔らかく受け止めてくれた。
「……はぁぁぁ――――――………疲れた……」
思わず零れた愚痴に、私は飛び起きた。慌てて室内を見回し、すぐに誰も聞いていないことを確認して、今度は仰向けに倒れた。
万が一にも、マリー様に聞かれる訳にはいかないですから……。どこか臆病なあの人。どこか無鉄砲なあの人。
本当に、本当に素直で可愛らしく、とってもエッチで、とっても優しいご主人様に知られるわけにはいかない。
あの優しいお方は、私が少しでも疲れている様子を見せれば、すぐさま仕事を休むよう命令してくるのだから。
「本当に……あの人は……どうしてこう……私は貴方の物なのに」
私は奴隷……私の体は私の体ではなく、この世界に私の体は存在しない。この世界に存在していた私の体だった物は、今はマリー様の手の中に。
私は道具……私の心は私の心ではなく、この世界に私の心は存在しない。この世界に存在していた私の心だった物は、今はマリー様の胸の中に。
ゆっくりと、目蓋を閉じる。その途端、浮かんでくるのは愛しきご主人様。
清廉の少女のような愛らしい声。男性のはずなのに、そこらの女子よりも滑らかで清らかな素肌。思わずため息を零してしまいそうなくらい美しい微笑。
『………ねえ、サララ? 今日もお願いしていいかな?』
私は瞑っていた目蓋を瞬時に開き、ズバッと起き上がって入り口に向き直った。
「……………………………………」
けれども、入り口は硬く閉ざされ、隙間すら開いていなかった。
……これはもしかしますと……マリー様の事を想うがあまりに起こった、いわゆる、幻聴というものでしょうか。
ベッドの上で正座していた私は、そのまま横に倒れこんだ。ボフッと顔が枕に埋まった。
「居るわけないです……今頃マリー様は、マーティさんと一緒なんですから」
チクッと胸が痛んだ。これは嫉妬でしょうか? それとも焦燥でしょうか?
耳を澄ませば、僅かに捉えることができる音。
何の情報もなくその音を聞き取るとするならば、まず殆どの人が風の音か何かだと思うでしょう。
でも、事情を知っている私ならば分かる。僅かに聞こえるこの音、消え入りそうで、あまりに弱弱しい音……訂正、それは声。
僅かに聞こえる、誰かの声。もちろん、それは誰の声か分かっている。今しがた案内した、マーティの声だ。
雌が、雄を誘うためにあげる音。いやらしく男を誘う音。ただただ男から与えられる快楽を表現する楽器に成り果てた、女の声。
「上手く……事が進んでくれれば良いのですが……」
その声を子守唄にして、私は静かに目蓋を閉じる。ゆるやかに訪れる夢の世界に、私はここ最近の出来事を夢に見た。
マリー様が落ち込んで帰られたあの日。全ての始まりの日のことを、夢に見ていた。
傘を差すには小雨で、かといって指さないでいると濡れてしまう、傘を持っていこうか迷ってしまいそうな夜でした。
「さて……ローリエの葉はこれくらいでいいでしょう……」
眼前のステンレスの鍋に湯気立つシチューを焦がさないよう、木ヘラで慎重にかき混ぜる。
あまり素早く混ぜると空気を取り込んでしまうから、ゆっくりと。
そのまま皿に盛り付けてしまいますと、小さな気泡が表面に浮かんでしまい、見た目が不恰好になってしまうからです。
そのため火力は弱火。時間を掛けてじっくりとルーを溶かし、具全体に味を染み渡らせます。
必然的に時間はかかりますが、仕方がありません。
全てはマリー様に美味しい食事を取ってもらうことを考えると、これくらい問題の内にも入らない。
いつものように、私は愛しいあの人の為に、あの人が大好きなシチューを作り、愛しいあの人を待つ。
もし、過去の私が今の私の姿を見たら、驚いて腰を抜かしてしまうかもしれません。
「もっとも私自身、今でもこうして料理を作っている自分が信じられませんけど」
最後にルーを入れてから40分。もう十分に味は染みっていると判断し、火を止める。
いつも私が座っている席に、腰を落ち着けて、準備は完了です。
後はマリー様を待つだけ。
壁に掛けてある時計に目をやると、マリー様がいつも帰ってくる時刻に指しかかろうとしていました。
もうすぐマリー様が帰ってくる。
そこに思い至った瞬間、私の胸は一際強く鼓動を奏でました。ゆっくりと視界が霞み、ドロドロとした感情が体を駆け巡っていく。
片手を胸に当てると、その奥にある心臓が激しく伸縮を繰り返しているのが分かりました。
「我がことながら、正直な体です……あの人のことを思い浮かべるだけで、こんなに高鳴って……」
マリー様の下で過ごすようになってから3週間……日に日に自分の身体が素直になっていくのを実感します。
マリー様の要求に素直に答え、素直に反応し、素直に震え、素直な身体へと変貌していく自らの肉体。
そのことに恐怖を感じることはない。それどころか、目も眩むような怪しい喜びを覚える自分を褒め称えたいとすら思えます。
これは……男女の愛なのでしょうか? それとも主人に対する敬愛なのでしょうか? あるいは崇拝に近い何か? はたまた家族愛?
……きっとその全てが正解なのかもしれない。あるいは、間違っているのかもしれない。
「マリー様は考えも付いていないでしょうね……私がどんな思いで貴方を見ているかということを」
マリー様のことを男として愛する想い。
絶対的主人として敬愛する想い。
神のように崇拝する想い。
幼き頃夢みた家族として愛する想い。
それら全てが、お互いの感情を高めあい、相乗し、増幅させてきた結果がこの感情。
もし貴方がダンジョンで命を落としたとき、私は喜んで貴方の後を追うでしょうね。
「ただいま~」
突然、耳元で聞こえたマリー様の声が、私の意識を現実に連れ戻してくれた。
ハッと横に顔を向ける。そこにはたった今まで夢想していた愛しい主人が心配そうに私を見下ろしていた。
……心配? いえ、これはどちらかというと、マリー様が……。
「どうしたの? どこか具合が悪いの? ここは僕がやっておくから、サララは休」
「私は健康体です。空いてしまった数分の時間、することがないので、ぼ~っとしていただけです……すぐに準備いたしますから、席に座ってください」
「そ、そうなんだ」
有無を言わさずマリー様を席に座らせ、急いでシチューお皿に盛り付ける。
マリー様は大変お優しい人なので、よく私の仕事を手伝おうとします。ですが、これは私の生き甲斐なので、こればっかりは手伝わせる訳にはいきません。
手早くマリー様と私の二人分をさらに盛り付け、テーブルに置く。パンやその他の料理も並べ、用意は終わった。
「うわ~、美味しそう……頂きます」
マリー様は子供のように笑顔を振りまいてシチューを食べ始めました。
最初の一口、マリー様がそれを飲み込んだのを確認してから、私も食べ始めます。奴隷たるもの、主人よりも早く食事にありつくのは奴隷失格だからです。
「美味しい、とっても美味しいよ、サララ」
マリー様は、そう言って、ふんわりと優しい笑みを私に向けてくれました。
美しく咲き誇るバラですら、その笑顔の前では自らの美しさを恥じてしまう、そう思ってしまう程に美しいものでした。
月の光を凝縮したかのような光沢ある銀髪。髪質も素晴らしく、シャンプーとは別に、うっすらと甘い匂いがすることを知っているのは、私だけの秘密。
前髪は中心から横に綺麗に分けられ、開かれた額を細い眉毛が飾るように生え、その下には勝気な印象を与えるアーモンド形の吊り目。
その勝気な目で見つめられるだけで私の心は蕩けてしまいます。
一本ずつ丁寧に細工されたような睫毛に、すっ、と小さくも高い鼻、薔薇を思わせるような唇が付けられ、
そこに運ばれるシチューが乗ったスプーンに軽い嫉妬を覚えるのは変でしょうか?
さらに病的にも、生命力溢れるようにも見える雪のような肌は、幻想的な美しさを与えています。
突然ですが、舐めてよろしいでしょうか……きっとダメでしょうね。
身に纏っているドレスはフリルが多く付けられていると同時に、細かい刺繍と小さな宝石が装飾されています。ああ……そのドレスになりたい。
「ああ…美味しい、おかわり貰える?」
ずいっと差し出されたお皿を受け取り、新しくシチューを注ぐ。
「はい、まだまだいっぱいありますので、どんどん仰ってくださいませ」
私の至福の一時はもうしばらく続きました。
ようやく快楽の波から逃れることができた私は、マリー様の腕に抱かれて愛をかみ締めます。
軽く耳をマリー様の胸に当てると、奥の方から聞こえてくる心臓の鼓動。その音は、代えることのできない最上の子守唄。
つい今しがた、女として生まれてきたことを喜び、愛しい男を受け入れることを喜び、浅ましくも淫らな獣になっていたのが夢のよう。
今夜も徹底的に女を開発され、私の身体はまた一段と素直になりました。
「……何か気になることでもあるのですか?」
私はマリー様にそう尋ねた。外は既に夜が支配し、バカ騒ぎする人達も眠りにつく時間帯。
マリー様と私の二つの命が奏でる鼓動以外、何も存在しない。そう思わせる程に静かな夜でした。
「……そんなに、顔に出てた?」
答えはYESでした。
「いえ、しっかりと隠せていました。ですけど、私の目から見れば悩んでいますと顔に書いているようなものです」
普段から常に貴方のことを見つめ続けているのです。マリー様の考えることなど、察することくらい朝飯前です。
「……サララには隠し事できないね……」
ポツリと、小さな声で溢したきり、マリー様は押し黙ってしまいました。
私は断腸の思いでマリー様の腕から這い上がりました。といっても、身体を密着させたままです。
ズルズルとシーツを引きずり、マリー様と顔を突き合わせるようにします。そして、瑞々しくも美しい唇に、軽くキスをしました。
「一人で悩むより、二人で悩む方が、気が楽になると思うのです。もしよろしければ、事情をお話してくれませんか?」
ジーっと、マリー様の瞳を見つめます。……ああ、いけません。ようやく疼きが治まった子宮が、再びマリー様を求め始めました。
ダメです。今はダメです。というより、自分の身体ながら素直すぎです。ちょっとは自重させることを覚えさせなければいけません。
「……うん、そうだね。それじゃあ、ちょっと聞いてくれる?」
マリー様は申し訳なさそうに、ちょっと嬉しそうに、私にお願いしました。
「はい! 当方に聞く用意は出来ております!」
もちろん、私の答えは決まっていました。
マリー様が私を引き取ってくださった日の翌日。ポストに入っていた『エンジェル』からの命令を受けた日。
その任務で、少しの間仲良くなった2人のこと。その人達はエンジェルの人達で、名前はマーティとロベルダだということ。
一人、カズマという美男の仲間がいたらしく、マリー様はそいつのことを嫌っていました。安心してください……マリー様の方が100万倍、1兆倍魅力的です。
任務が終わった後、マリー様はもう一度会えないかと思っていた矢先、街中で偶然にもロベルダとカズマを見かけたこと。
なにやら思いつめた表情だったので、後を付けてみたこと。そこで、マーティが酷い怪我を負ってしまったこと。その怪我で、身体に火傷痕が残ってしまったこと。
マーティの恋人であるカズマが別れ話を切り出したこと。それをロベルダが怒鳴りつけたこと。色々なことを聞いたのです。
事情を察したマリー様は、マーティという女性を助けようと思ったこと。
けれども、マーティさんはエンジェル内の施設で治療を受けており、マリー様でも潜入は難しいらしく、そのことで悩んでおりました。
何でも、中は対魔術防御の結界があるため、すぐに見付かってしまうらしいのです。
ならば正面から堂々と面会すればいいのでは、とも思ったのですが、エンジェルに所属している人意外は、身内以外は中に入れないのだそうです。
マリー様の魔術ならば、火傷痕も傷も全て完治させることができるのに、それができないことが悔しく、辛い思いを抱いていたのです。
ああ、やはりマリー様はお優しい。普通の人ならば、そんな数十分話しただけの相手をそこまで気にしたりはしないところなのに……。
だから私は言いました。
『それならご安心ください。私がお姉さまに頼んでみますので、もしかしたらエンジェル内部の人と交友があるかもしれません』っと。
それを聞いたマリー様は本当に嬉しそうに、私に礼を言った後、優しくキスを返してくれました。
悩み事が解消したマリー様は、再び私を求めました。もちろん、私は股を開くことで返事を返しました。
首尾よく私も準備が出来ておりましたので、つつがなく受け入れることができましたのは重畳の至り。
けれども、そこからが天国の始まりでした。
それから一時間。二度私の中に熱いものを放ち、私も数え切れないくらい絶頂を極めさせられました。
最後に、両手に収まりきらない量の精液を飲み干して、夜を終えるものと思っていました。
……ええ、甘かったです。砂糖菓子にジャムを塗りたくり、蜂蜜を振りかけた後、もう一度砂糖を掛けたくらい甘かったです。
悩みから開放されたマリー様の性欲を甘く見ておりました。変に発散された性欲は逆効果になってしまったのでしょう。
息絶え絶えにマリー様の下でグッタリしている私に向かって、マリー様は魔術を唱えました。
呪文を唱えているようですが、私には歌っているか詩を読んでいるようにしか聞こえません。
『我が請う 水と光が織り成す幻想 彼のものに生命の息吹を』
それは魔術師達にしか使えない技術。本来ならダンジョンから手に入る指南書か何かを使わなければ、絶対に習得できないはず。
ですが、さすがマリー様。ただ強くて、優しくて、美しくて、聡明で、絶倫だけというわけではありません。
まるで妖精が純真な子供を弄ぶように軽やかで、航海士達を震え上がらせたセイレーンのように美しくも淫らな歌声が私の身体を包みます。
『キュアリス・ファー』
するとどうでしょう。性交の疲れで指一本動かすのも億劫だった私の身体から、みるみる疲れが消えていくのが実感できます。
結果、十分に睡眠を取ったかのように体力気力が充実した状態になりました。
けれども、快楽の名残と子宮の痺れが依然そのままです。
身体は元気いっぱいなのに、性欲が満たされているという、不思議な感覚に身もだえしている私に、マリー様は言いました。
『これなら、まだ頑張れるよね?』
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それからの記憶は曖昧です。
不規則に子宮口を叩く陰茎は、速く、遅く、私の子宮を苛め抜く。
素早く小突いたと思ったら、今度は蟻が這うように焦らされたり。
円を描くように膣内をかき回され、カリ首に引きずり出され、押し込まれ、私の女は徹底的に虐められました。
私がどれだけ快楽の嬌声を上げ、どれだけ哀願しても、マリー様の腰が止まることはありませんでした。
朝日が昇り、朝食の時間が過ぎたあたりまで続きました。膣に埋め込まれたマリー様の陰茎は一度も抜かれることはありませんでした。
溜め込んでいた思いを私に吐き出したのが良かったのでしょう。マリー様は穏やかな笑みを浮かべて、出かけていきました。
私は震える下半身を奮い立たせ、マリー様の体液と私が出した体液をそのままに、裸でお見送りしました。
そして、玄関の鍵を閉める。震える下半身を騙し騙し動かし、リビングの椅子に腰を下ろしました。
べちゃっと椅子のクッションが悲鳴を上げましたが無視です。玄関から点々と愛液と精液の跡が続いていますが無視…です。
座った拍子に膣口から色々噴出してしまいましたが無視……ああ、もったいない。
「……すごかっひゃ………ひぬかと思いまひひゃ…」
そうして私はしばらく裸のまま、ぐったりして過ごしました。
もちろんそれは室内でも例外ではありませんが、空調設備が整っている家ならば例外になります。
しかし、普通の一般家庭ではそのような設備があることはほとんどありません。
あるとすれば、せいぜい桶に水を張って使う、即席冷却道具くらいでしょうか……。
なにせ暖めるのではなく、冷やすのです。使われるエネルギーもかなり多くなり、かかるお金も半端ないので、普通は置かれていない。
例外なのは、政府運営の施設と富豪層の邸宅くらい。あとは一部の多少裕福な家庭というくらいでしょう。
私が前に住んでいた娼婦館の一室は例外の一つでありました。
チラリと視線をベッド脇のテーブルに向けます。そこには、ちょっと古臭い電話機と、青く光り輝く宝石が専用の陶器の上でふよふよと漂っていました。
結晶氷石……吹きかけた水の量によって、大気の温度を低下させるアイテム。
それなりに高価な物で、おいそれと手が出せるものではないのですが、夏場の娼婦館には必ず十数個常備されています。
なぜならば、仕事上、どうしても必要になるからです。
娼婦という仕事上、どうしてもやることは肉体を使ったものになります。
冬や春や秋などでは気にならなかったものが、夏場では非常に気になってしまうからです。
それは汗と臭いと気温です。
夏場は客も娼婦も行為の最中、事後は非常に汗をかきます。下手をすればそれ以前に汗を垂れ流すこともあります。
さすがに蒸し風呂みたいになった部屋で性の営みをするのは、いくらか気を削がれるというものなのでしょう。
客がそうなのですから、娼婦達も例外ではありません。いえ、むしろ一日中客の相手をして脱水症状を起こす人もいるので、客以上に気が重くなるでしょう。
そのため、客と娼婦達が楽しく励むためには、どうしても必要になってくるのです。
でも結晶氷石を使ったら使ったで、その分客を取らなければならなくなるのですが……難しいところです。
視線を下げると、品の良い化粧椅子が置かれていました。元が上級ホテルだったおかげか、置かれている家具一つ一つの造形は美しく、優雅な印象を与えます。
使われているベッドも一般家庭にあるものよりも大きく、また使われているクッションも上等な羽毛が使われているのです。
私がそうやって過去を懐かしんでいると、目の前のテーブルに香り立つ紅茶が注がれたカップが置かれました。
「さっきからジロジロと……そんなに懐かしく見える?」
私はもれ出てくる苦笑を隠しませんでした。
「そういうわけではありません。ただ、ここは変わっていないという事実に安心しただけです」
「それを懐かしんでいるっていうのよ、バカ」
テーブルを挟んだソファーに座っている女性……娼婦館の当主、マリア・トルバーナは、穢れを知らない女性のようにカンラカンラと向日葵のように楽しげに笑いました。
マリア姉さんは、う~んと唸って腕を組みました。
マリア姉さんが着ているシルクの淡い紫色のドレスのおかげで、そんな姿も美女に見えます。
腕を組むことによって強調されたタプンタプンの乳房が憎らしい。私も、マリー様を包めるくらい大きくなりたい。
「……ふ~ん、事情はだいたい理解したわ。用はそのマーティという女の子を、どうにかしてマリー君に股を開かせるようにすればいいのね?」
「全然、全く、完全に、絶対に違います。マリア姉さん、あなたは私の話を聞いていましたか?」
「聞いていたわよ、あなたのマリー君に対する惚気と惚気と惚気と惚気と惚気と猥談ならね」
「そうですか、それならばもう一度始めから説明しましょうか?」
「遠慮するわ。このままだと、ストレスで胃に穴が開きそうだから」
今回訪ねた用件を伝え、事情を全て説明し、これから私が行おうとする行動に力を貸して欲しいという私の願いは湾曲して受理されるところでした。
不本意なことに、マリア姉さんは疲れたようにため息を吐いて、眉間を揉み解していました。
そんな姿でも変な色気があるのが腹立たしい。娼婦館当主であると同時に、一番人気の名に恥じぬものがある。
なんでも、一度肌を合わせればもう彼女から離れられなくなるとか。
ええい、それならば、その有り余った色気を少しこちらに分けて欲しいものです。
マリー様を誘惑するためには、色気はいくつあっても困ることはないでしょうし。
「まあ、あなたの惚気はこれくらいにして……とりあえず、どうにかして中に潜入して、そこでマーティという人に会って話を付けたいわけね?」
こうやって人を茶化して遊ぶところは本当に変わっていません。まあ、それがある意味ムードメーカーみたいなものなのですが。
「何とかなりませんか? マリー様の話では、中に入るためには内部にツテでもないと入るのが難しいらしいのです」
「う~ん……ちょっと待って、今考えてみるから」
そう言うと、マリア姉さんは身体をソファーにダラリと預けて、目を瞑ってしまった。
マリア姉さんが自分の頭の中で色々考えるときの癖だ。こうなった姉さんは、ちょっとやそっとじゃ反応しない。
私はどうやって暇を潰そうかと思案していると、背後のドアが開かれた。
私は背後に振り返った。そこには、楽しげに笑顔を見せる長身の女性が立っていた。
女性は長身のため、膝あたりまでしか隠せてないスカートを揺らして、杖を使って私の元にやってきた。
弾みにふわりと一瞬まくれ上がった女性の太ももは、素人目にも鍛えられているのが見て取れた。
女性は私が座っているソファーに腰掛け、ふうと息を付いた。場所でいえば、私の隣です。
私は先に話しかけることにした。久しぶりに顔を見れて嬉しいからです。
「シャラさん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「おう、サララも元気そうでなによりだ」
女性、シャラ・ミースは、ひまわりのようにニカっと少年っぽい笑顔を見せた。
シャラ・ミース……彼女は他の娼婦とは違い、殆ど客を取らないし、取れない(彼女はそれを気にしているらしい)。
身長が187cmと男でもそういないほどの長身で、肉体も普段から鍛えているらしいのでどこか男らしい身体の持ち主です。
といっても、それはどこか、というところ。蓋を開ければ、メロンのように張り出した乳房に、引き締まった越し回り。お尻も、むちっと張り出し、両足もスラッと長い。
おまけに顔も良いときているのだから、どう謙遜しても、シャラは一級品の美女であることは間違いないのです。
だけどもシャラのサバサバした性格。男性を喜ばせる演技が下手くそな上に、男に劣等感を与える程の長身なので、客からの人気はいまいち。
唯一来る客も、SMプレイのSとして指名することが殆ど。結果的には、あまり元が取れていないのです。
シャラは娼婦としての仕事以外に、娼婦館の用心棒的存在でもあるからです。娼婦館で起きる問題事を力ずくで解決するのが主な仕事です。
昔は探求者として腕を鳴らしたらしいのですが、怪我を負って引退し、職を点々とした結果、ここに来た……と本人が言っていたのです。
「ところで、サララがここに来ているってことは……だ。その……さ、あ、あいつは来ている……かい?」
隣でニコニコ笑っていたシャラは、それだけをボソボソと言うと、黙ってしまった。
落ち着き無くソファーの感触を確かめたり、テーブルを訳もなく指で突いたりと、突然様子がおかしくなった。
普段から負けん気の強さと度胸では誰にも負けないと豪語していたシャラとは思えない姿でした。
「残念ですが、マリー様は仕事でダンジョンに向かっております。何か伝言があるのでしたら、お伝えしますが?」
「い、いや、いいんだ、別に。特に意味があったわけじゃないし、ただ気になっただけなんだ。うん、ただそれだけだ。気にしないでくれ」
シャラは頬を赤く染め、手をパタパタ振って、妙に声を張り上げて私の申し出を断った。
どう考えても、ただ気になっただけという反応ではないのです。
「マリー様もここは気に入っておりますので、また来たいと言っておりました。そのときは、シャラさんをまた抱きたいとも言っておりましたです」
試しに前にマリー様がここを訪れたときに溢した言葉を言ってみた。効果は抜群でした。
シャラは頬をさらに赤く染め、恋する少女のように俯いてしまった。
「あらあら、シャラは随分マリー君に熱心ね」
いつの間に復活したのか、マリア姉さんはシャラの様子を面白そうに眺めていました。
シャラは何か言われると思ったのでしょう。少し潤んだ目を鋭く研ぎ澄ませて、マリア姉さんを睨みました。
「そんなんじゃない……マリアさんの思っていることじゃないよ」
「隠さなくたっていいわ。私、ちゃ~んと知っていますから」
シャラの精一杯の虚勢も、マリア姉さんには通じませんでした。
「私達が娼婦であり、他の男たちと寝ているということも分かった上で、一人の女として、宝物として愛してくれる人ですもの。皆が惚れちゃうのも分かるわ」
ニマニマと背筋に悪寒を覚える笑みを浮かべたマリア姉さんは、まるで小悪魔のように見えました。
……ただ、皆が惚れるというところはどういう意味なのでしょうか。詳しく聞きたいのですが。
「おまけに私達をヒーローのように助けてくれて、エッチも上手で絶倫とくれば、惚れなくてどうするの」
「だから、私はそんなんじゃ…………」
この期に及んでまだ言い訳を重ねるシャラ。
「あら、そんなこと言っていいの? あの時は凄かったわね……サララ、覚えてる?」
急に私に話が振られました。なにやらシャラが横目で合図を送ってきますが、無視します。
「あの時はマリー君もちょっとSMを体験したいのかな……って思っていたけど、いざマリー様とシャラが部屋に入ってから30分くらい後だったかしら」
「ええ、そうです。廊下からでもはっきり聞こえるくらいでした」
「ああん、ダメ~~~!! とか、オチンコでオマンコほじらないで~~!! とか、シャラのオマンコ、どスケベマンコになる~~!! とか、凄かったわね」
「仕舞いには、チンポミルク飲まして~~!! とか、チンポ美味しい、チンポ最高、とか絶叫したりしましたね」
「あれは傑作だったわ。最後は、オマンコ奴隷シャラ・ミース、はしたなくチンポアクメイキま~す!! だもんね。夢かと思ったわ」
「…………本当、ごめんなさい、マジで勘弁してください」
結局、シャラが土下座するまで、私とマリア姉さんの暴露話は続いた。
マリア姉さんは心から楽しそうに笑いました。反面、部屋の隅でシャラがブツブツ壁に何か語りかけていました。さながら、燃え尽きた灰ですね。
私が気の毒そうにシャラを見ていると、マリア姉さんは私に話を切り出しました。
そこにはシャラへの配慮とか、思いやりとか、そんなのは一片も入ってませんでした。
「それはそうと、サララ。さっきの話の続きだけどさ……私の知り合いに、エンジェル内に精通している人がいるんだけど、そいつに頼んでみようと思うの」
驚きました。
自分で頼んでいてなんですが、エンジェル内にコネがある人は、大富豪の人達か、エンジェル内に親族がいるかのどちらかです。
マリア姉さんは確か孤児らしいですし、大富豪のお客さんがいるという話も……いえ、マリア姉さんでしたら、あるいは……。
知らず知らずの内に、マリア姉さんを尊敬の眼差しで見ていたのかもしれません。マリア姉さんは、くすぐったそうに頬を掻いて、否定しました。
「あ、先に言っておくけど、大富豪の人達と関わりもっていないからね。ていうか、持っていたら借金なんてすぐに返せたでしょう」
私の考えを呼んだマリア姉さんが先に釘を刺しました。
……では、いったいどういうことなのでしょうか?
「そこらへんは、あいつに会えば分かるから……ちょっと待って、今あいつに連絡するから」
マリア姉さんはソファーから立ち上がって、ベッド脇の電話機を手に取り、誰かに連絡を始めました。
立ち上がった瞬間、マリア姉さんの身体からふわっと香水の匂いが香りました。
こういうところは一流のプロであると私は実感しました。
さりげない所作に、ほんの僅かに女を匂わせる。これはやろうと思ってもなかなか出来ません。
弱すぎると気づいてもらえない。強すぎるとわざとらしい。この微妙な力加減が大事なのです。
たいていの人は、これをやろうとすると逆効果になるのが難点でしょうか。
そんなことをツラツラと考えている私の視線の片隅に、シャラの背中が映りました。
「仕方ないじゃないか……こんな私を始めて女として見てくれたんだぞ……キスも普通のエッチも初めてだったんだから仕方ないじゃないか……」
シャラは今だ、壁に向かって呟いていました。
私は見なかったことにしました。自分でも懸命な判断だと思います。
そうこうしているうちに、マリア姉さんの方は話が付いたみたいで、受話器を電話機に戻して、私へ振り返りました。
「話は付いたわ。後はあいつに任せるから」
「それは、重ね重ねお礼を申し上げたいです。ところで、そのあいつ、というのは、いったいどんな方なのでしょうか?」
もし、見返りに身体を要求してきたら、私はマリア姉さんを恨みます。今の私の身体は髪の毛から足の爪先まで、マリー様のものですから。
しかし、そんな私の気持ちを知っているマリア姉さんは笑って手を振りました。
「あははは、大丈夫。あいつはそんなこと頼まないわよ……だからそんな目で見ないで頂戴。なんか子供を虐めているようで罪悪感が……」
思っている以上に視線がきつくなっていたのかもしれません。あと、子供とは何ですか。これでも立派な奴隷ですよ。(主に性的な意味で)
そんな私の思いもなんのその、マリア姉さんはサラサラっと紙に何かを書くと、私に手渡しました。
「とりあえず、会ってみれば分かるから」
渡された紙には地図が書かれていました。目的地らしきところには、ここへ行け、と可愛らしく書いてありました。
「ありがとうございます、マリア姉さん」
「いいってことよ。また遊びに来なさい」
私は一礼して、部屋を後にしました。
あの二人まだやっているのですか……客が来ないと暇なのはどこも一緒なのですね。
『オッパイ揉むのらめー!』
『もう本当に勘弁してください!』
『クリチンポ、クリチンポー!』
『楽しいですか!? 私を虐めてそんなに楽しいですか!?』
『楽しかったらしないわよ! 悪い!?』
『逆切れ!? ここはむしろ私が怒るところでしょうが!』
『いつまでも冷静になっているほうが大抵負けちゃうんだから、こういう時は先に怒った方が勝ちなのよ』
『だったらちょっと拳骨していいですか!? そろそろ我慢の限界なんですけど!』
『うわ……なに一人でキレているの? あんたもいい年なんだから落ち着きってやつを持ちなさい』
『あ、ん、た、と、い、う、や、つ、わ~~~!!!!』
『いや~ん、シャラちゃんが怒った~、怒っちゃった~』
ドタバタと奥から騒ぐ騒音が聞こえてきた。本当にマリア姉さんは人をからかうのが好きな人だ。
まあ、あんまり虐めると可哀想なので、マリー様にも話しておきましょうか。
そう決めた私はとりあえず、騒いでいる二人に聞こえるように大声で、アクメ狂いにされりゅー! と叫び、娼婦館を飛び出しました。
後ろの方からシャラの言葉にならない怒声が聞こえたような気がしました。
汚れたベンチと、さび付いた鉄棒と、ポツンと立てられた公衆トイレだけしかない、寂しい公園でした。
昼間だというのに公園には子供一人見かけられず、ベンチに一人の男が座っているだけでした。
きっとあの人だ。
私はさっそく男に近づきました。
ベンチに座っていた男は、私が近づいてくることに気づき、悠々とベンチに持たれて両足を投げ出しました。
しかし、近づくにつれはっきりしてくる男の風貌に、私は疑問を覚えました。
なぜなら、男の風貌があまりにも私のイメージしていた人とかけ離れていたからです。
学園エンジェルの中に入れるコネを持っている人ですから、多少は裕福な姿をしていると思っていたのです。
ですが、その私の考えは男の正面に立つことではっきり否定されました。
男の風貌は、一言で言えば工業などに従事する服装だったからです。
薄い水色の上下のツナギ。短く刈り込まれた髪に、ツナギの上からでもなんとなく見て取れるたくましい肉体。
あまり裕福そうには見えない……それどころか、どこから見ても一般人にしか見えない人でした。
もしかすると、腕の良い探求者なのでは? とも思いましたが、すぐにそれは違うと結論付けました。
武器も防具も身に付けていない探求者など聞いたことがないですし、探求者は武具の重さに慣れるため、
普段から武具は見に着けて行動するものだとマリー様が言っていたのを、私は知っているからです。
男は、そんな私の内心の葛藤に気づいているのかいないのか、ベンチから立ち上がりるとサッと手を差し出しました。
私よりも頭一つ分以上大きい人でした。
「君が、サララちゃんかい?」
私はその手を掴み、握手しました。ちょっとゴツゴツしていて、マリー様とは違いました。
「はい、そうです。貴方のお名前をお聞かせ願えますか? マリア姉さんは何も教えてくれなかったので」
男は、ニヤッと男らしい笑みを浮かべて、自己紹介しました。
「俺の名は、アベだ。チーム『くそみそテクニック』のリーダーを務めている。これでも一部では名の知れた男だ。大船に乗ったつもりでいてくれ」
「あら、それは随分頼もしいですね」
「俺は女性には優しくに、男には紳士に接するのがポリシーなんだ」
アベは、妙に男らしい笑みを浮かべました。
私はふと、マリー様のことは話さないでおこうと思いました。
一見すると、配管工かそれ系統の人しか見えないアベさんでしたが、やはりコネを持っているのは本当のようです。
学園エンジェルの正面玄関に到着した私は、アベさんに連れられるまま、正面から堂々と中に入りました。
もちろん、そこまで堂々と入れるのならば、既に話を付けていると思うのですが、やはり心配です。
紹介状も無しに学園に入れば不法侵入者、中で問題でも起こせば確実に牢屋に押し込まれてしまうでしょう。
別段、私自身は捕まっても痛くも痒くもありません。元々両親などいないも同然ですし、娼婦の私には腕に職もありませんので、今更前科の一つや二つ、へっちゃらさんです。
しかし、それが原因でマリー様のイメージを悪くしてしまったら。
もしもマリー様へ暴言が吐かれるようなことがあれば。
私は自分が許せないでしょう。自分の首をへし折っても足りない。実を炎に包ませ、血肉の一片まで粉々にミンチにされても、まだ足りない。
自らの憎悪で、自らの命を切り裂いても、きっと自分を許せないでしょう。
想像するだけで、胸の奥から沸々と熱く煮えたぎった何かが湧き上がってくるのを実感しました。
「おい、どうしたんだ?」
ふと前を歩いていたアベさんが振り返って私の顔を覗き込みました。
「ずいぶん怖い顔していたが、何か思うところでもあるのかい?」
どうやら、知らず知らずのうちに顔に出てしまったのでしょう。アベさんが心配そうに私を見下ろしていました。
「ちょっと嫌なことを思い出しただけです。気にしないでください」
「そうか? それだったらいいんだが……」
迂闊です。アベさんにいらない心配をかけてしまいました。
ふう、とため息を吐いて気持ちを落ち着けます。しかし、そうなると再び頭をもたげてくるのは、さっきの想像。
落ち着いて、落ち着きなさい、サララ。このままではまたアベさんに心配させてしまいますよ。
ここは逆転の発想です。これからすることが成功したときのことを考えて、プラス思考になりましょう。
ムクムクっと膨れ上がる想像の世界。私の頭の中では、きっと大量の妄想虫が羽ばたいていると思います。
もし、無事にマリー様にマーティという女性に合わせ、マリー様の心を晴らすことができれば。
もし、マリー様がそのことで喜んでいただければ。夜も明けないマリー様、その夜を明けることができれば。
そうなれば、モナ・リザすら霞んでしまう美しくも妖しい微笑みを。
そうなれば、太陽よりも優しく、母の温もりよりも暖かい微笑みを。
また私に向けてくれるのでしょうか。
そのことを妄想した瞬間、私の心は歓喜に包まれました。
私の身体は優しく震え、子宮が絶頂の甘え声を上げます。
膣口から熱い愛液が染み出し、マリー様が密かに好んでいる細やかな刺繍が施された大人っぽいショーツを濡らします。
「……病院に行ったほうがいいんじゃないのか?」
精神的絶頂に震える私を見て、アベさんが気の毒そうに言いました。不覚です。
後で分かりましたが、クネクネと身体をヘビのようにくねらせていた私の姿は、非常に気持ち悪かったそうです。不覚です。
小さな簡易受付所には、まだ年若い青年が見張っていて、私達に目を止めると、
「紹介状を提示するか、学生証を提示してください」
と、マニュアル通りの対応をしました。
青年から視線を外し、受付所の中を少し覗いてみると、青年以外誰も居ませんでした。
私は紹介状も偽造の学生証も持っていませんので、対応することができません。
その意味も込めて、どうするのかと目でアベさんの背中を見つめました。
アベさんは、まかせとけと言わんばかりに片目をパチンとウインクをして、堂々と窓口に近づきました。大丈夫なのでしょうか?
下手に私が居てもジャマだと思ったので、4~5m程離れた所で待つことにしました。
(おい、ちょっといいか?)
(はい、どうかしまし…うほ、いい男)
(ちょっと中に入りたいんだが、何とかして中に入れてもらえないか?)
(……あ、いや、いい男の貴方でも、さすがにそれは……)
アベさんと青年がボソボソ話し込んでいますが、距離があって何を話しているのか聞こえません。
なにやら受付の青年が渋っています。何だか不安になってきました。
アベさんはごそごそと右手を胸の辺りから鳩尾の辺りまで上げたり下げたりしています。
私の方からは背中しか見えませんので、何をしているのかサッパリ分かりません。
(ところでこいつを見てくれ……どう思う……)
(凄く……大きいです……)
(俺は回りくどいのは嫌いだから、単刀直入に言わせてもらう…………やらないか)
(………………ゴクリ……そ、それでは……)
青年との話は済んだのか、アベさんは振り返って私に手招きしました。どうやら成功したみたいです。
私は呼ばれるがまま、アベさんの下へ駆けると、アベさんは男くさい笑みを浮かべて私に一枚のカードと女性が写った一枚の写真を私に差し出しました。
「それがあれば中に入っても大丈夫らしい。中に入った後、誰かに咎められたらこのカードを見せればいいとのことだ。
後、マーティに会いたいならこの女を訪ねてみるといい。
ロベルダ・イアリスという女性で、学園エンジェルの中ではアウトローの仕事をしているやつらに寛容で理解を持っているから、きっと力になると思う」
「ありがとうございます、本当に助かりました。……ところで、アベさんはこれからどうするんですか? アベさんも中に入るんですか?」
「俺はこれから少し行くところがあるから、ここでお別れだ。帰るときは俺のことは気にせず好きなときに帰ってくれ。後、そのカードは今日一日しか使えないぞ」
それだけを私に言い残すと、アベさんは受付所の裏にある小さなトイレに向かいました。
その後ろを、青年が付いていきました。金銭の受け渡しでもするのでしょうか?
どっちにしろ、私が気にしていても仕方ない。後は私で何とかしましょう。
私はアベさんを置いて、さっさと学園内に入ることにしました。
思っていたより早く、ロベルダ・イアリスという女性に出会えたのは行幸です。
彼女は誰も居ない体育館らしき大広間で一人、剣を振るっていました。
両腕を高く上げ、そして一気に剣を振り下ろす。それを休みなく、一定のリズムで繰り返していました。
その度に振り下ろされた剣が空気を切り裂き、乾いた音が体育館を広がります。まるで風が鳴いているようでした。
「……719……720……721……722……723……724……725……726……727……728……」
彼女は胸を上質な布で覆っただけの行動的な服装で、下半身もスパッツを履いただけの簡素で半裸な姿でした。
そのため、隠れていない素肌から球のような汗が飛び散り、彼女の長い金髪が振り乱れ、熱気が周囲に広がりました。
「……895……896……897……898……899……900……901……902……903……904……」
美しい。
私は一心不乱に剣を振るう彼女の姿を見て、心からそう思いました。
腰まで伸びた、輝くような長い金髪。青色の瞳に整った目鼻、絵本に出てくる妖精が大人に成長したかのような姿。
まるでお姫様のような外見なのに、その瞳に宿る力は、辺りを威圧させる迫力を備えていました。
剣を振るう度に躍動する筋肉、女性としての美しさを損なうことなく、男性の逞しさを兼ね揃えた彼女を、私は心から美しいと思いました。
戦士とは、探求者とは、こういうものなのだということを、まざまざと見せ付けられました。
武人という言葉は、きっと彼女のことを指すのでしょう。
「……994……995……996……997……998……999…………1000!」
最後に広場全体に響き渡るほど大きな声で気合を入れて、彼女の鍛錬は終わりを告げました。
どうやって話しかければいいのか悩んでいる私に、彼女は、ふうっと軽くため息を吐いてから、私へ振り返りました。
「先ほどからずっと私を見ていたようだが、私に何か用でもあるのか?」
彼女は足元に置いてあったタオルを手に取り、体の汗を拭き始めました。
私が女だからなのか、気にすることなく胸を覆っている布の中にタオルを突っ込み、
手に納まらないくらい大きい乳房をグニグニと揉みしだくように汗を拭いていました。
……う、羨ましくなんかないんだからね!
「……マーティさんのことで、少しお話が……」
ピタッと、彼女……ロベルダさんは動きを止めました。けれど、すぐに再開しました。
「……お前……何者だ」
「マリー・アレクサンドリアの従者、とだけ……」
私は信頼の意味も込めて、ロベルダさんにニコッと笑みを向けました。
ロベルダさんはお腹周りの汗をせっせと拭いていました。その度にプルンと揺れる乳房が憎らしい。
幾分、笑みが引きつるのを抑えることができませんでした。
「理解が早くてなによりです」
テーブルにはティーカップに注がれた冷えた紅茶が二つ置かれ、私たちは椅子に座って話をしてました。
全ての事情と私の計画を話し終えると、ロベルダさんは疲れたように眉間を解しました。無理もありません。
「正直言って、お前の提案はかなり魅力的だ。あいつも火傷を治せるのなら、一回くらいは我慢してくれると思う」
「では、交渉成立というわけですね」
「それはまだだ。結局のところ、決めるのはあいつだ。私がどうこう言えることじゃない」
ロベルダさんは辛そうに目を伏せました。何か思うところがあるのでしょう。
「ただ、分からない部分もある。お前の話を聞いていると、マリーさんは心優しいお方に感じたのだが、
もしそうなら尚のことおかしい。どうしてマリーさんがそんな条件を出したんだ?」
ロベルダさんは心底分からないという表情で、私に疑問をぶつけました。もちろん、理由は全て話します。
「いいえ、マリー様はそもそもこの件については何も知りません。これは私の独断によるものです」
「……それでもおかしい。どうして…その、あの…………マーティの体を交換条件にしたんだ?
お前に聞いた限りでは、マリーさんはそういうことは嫌いなんじゃないのか?」
その言葉に、私は内心ロベルダさんの評価を上げました。どうやら、ロベルダさんは頭脳という点でも一級のようです。
ロベルダさんが疑問に思うのも無理はありません。マリー様が無理やりというのを嫌っているのは、私にとっても百も承知です。
しかし私が、マリー様が嫌っている行為を行おうとしているにも、訳があります。
「ロベルダさんの言いたいことは分かります。確かにマリー様はこういったことは嫌いな人です。
ですが、それでも私はこの条件を出さなければなりません、出す必要があるのです」
「……何か理由があるなら説明してもらえるか?」
私は姿勢を正して、椅子に深く座りました。ロベルダさんも雰囲気を察したのか、私と同じく姿勢を正しました。
「理由を説明する前に、まずマリー様のお体について話さなければなりませんが、よろしいですか?」
ロベルダさんは無言のまま首を縦に振りました。
「ロベルダさんはマリー様と手合わせをしたことがありますか? もしあるのでしたら、率直に感想を話してくれませんか」
ロベルダさんは軽く瞬きを繰り返して、答えを出しました。
「私個人の意見を言わせてもらえば、強い戦士、といったところだ」
「強すぎる戦士、の間違いではありませんか?」
ピクリと、ロベルダさんは眉を痙攣させました。
おまけに膨大な魔力を兼ね備えた人だ。だが、それがどうかしたのか?」
「……強い力、膨大な魔力、それだけなら誰もが羨む話で済む話ですが、古来より強い力には必ず代償というものが付いて回るのをご存知ですか?」
ロベルダさんは一つの答えに辿り着いたのでしょう。表情を驚愕に染めて、私に問い質しました。
「……まさか、命を対価にしているのか?」
「……そうなのですか?」
ロベルダさんの口から飛び出た言葉に、私は心の底から驚きました。なぜか私の様子を見たロベルダさんは困惑の表情を浮かべました。
「……違うのか?」
「違います」
いったい何をいきなり……それはマリー様に失礼というものですよ、ロベルダさん。
「じゃあ、いったい何なんだ?」
ずずいっと顔を近づけてくるロベルダさん。私も負け時に胸を張って張り合いますが、ロベルダさんは気にも留めません。
小さなオッパイ、略してチッパイには注意を払う必要がありませんか、そうですか。
勿体ぶっても仕方ありませんので、私もずばり言います。
「ずばり……精力です」
その瞬間、ロベルダさんは本当に椅子からずり落ちるように転げ落ちました。
これが噂のズッコケというやつですか。初めて拝見しました。
ロベルダさんは這い上がるように椅子に座りなおし、私を半眼で睨みました。
「……冗談で言っているわけではないな?」
「冗談でこんなこと言いません。私を何だと思っているのですか」
「とりあえず説明の間に、惚気と猥談をブレンドするようなやつとだけは言える」
「失礼な……まあ、実際凄いんですよ、マリー様。この前、私の知り合いが経営している娼婦館に行ったときなど、娼婦4人と私を入れて、一晩40回です。
もう終わる頃には頭バカになっています。それが1週間続きますので、合計280回。正直、人間の限界というものを超えていると思います」
「いや、一晩10回で十分人間の限界を超えていると思うのだが……」
「おまけに、私たちはその数倍はイカされます。知っていますか? 子宮が快感で痙攣しているときに、無理やり痙攣をチンチンで止められると凄いんですよ。
痙攣を押さえ込むからさらに快感が増幅される上に巧みなテクニックで腰を振られますから、終わったときにはマリー様のこと以外考えられなくなるのですよ」
「聞いていないぞ……で、それとマーティの話と、どう関係があるんだ?」
ロベルダさんは頭を振って、疲れたように言いました。
「だから、その理由を答えろと……」
ぶつくさぼやかないでください。
「マリー様の実力は私自身、知っています。といっても、正確には把握してはおりませんが。しかし、いくらマリー様が強くても、絶対はありません」
「……マーティの力が必要なのか?」
「マリー様がどれだけ強くても、時には怪我も負いましょう。酷い怪我な場合もあります。
しかし、残念なことに……私にはマリー様が怪我を負わないようにサポートすることも、探求に加勢して、戦闘に参加する力もありません」
「……それだと、体を交換条件にするより、いざというときに加勢するという条件に変えたほうがいいんじゃないのか?」
ロベルダさんが不思議そうに首を傾げました。私は膝を叩いて叫びました。
「何を言っているのですか! マーティさんに女の喜びを与えるチャンスではありませんか!
カズマとかいう租チン男には、自分の女を寝取られるというくらいの惨めさを味わわせてやりたいのです!」
ロベルダさんは頬を引き攣らせました。
「お前、色々理由を付けているけど、結局はマリーさんに女をあてがいたいだけじゃないのか!? それに、最初と話が変わっているぞ!」
「変わっていません! 租チン男のくせに、マリー様を侮辱するなど万死に値する行為です!
マーティさんだって、見た目で別れを切り出す男より、中身を見てくれる男の方がいいに決まっています!」
「その意見には同意するが、チンコで比べるんじゃない! マーティが男をチンコで選んでいるみたいじゃないか!」
しばらく私とロベルダさんの口論は続きました。
私の胸が上下し、ロベルダさんの胸は大きく上下します。こんなところにも格差というものは表れるものなのですね。
「はあはあ、と、とりあえず、体を交換条件という形で伝えればいいのだな?」
「ふう、ふう、そ、そうしてください。マリー様には私から言っておきますので」
「た、頼む。私もマーティに上手く伝える…………それと、ちょっといいか」
瞬間、ロベルダさんの纏う空気が変わりました。性的な意味で。
「マリー様に抱かれたいとかならダメです」
「……なんでだ? というより何故分かった?」
「一瞬、目が女になりましたから」
ぱちくり、目を瞬かせていたロベルダさんは、私に媚びるようにお願いしてきました。
「頼む……一回でいいんだ」
「ロベルダさんほどの美人なら、いくらでも相手がいるでしょう。わざわざマリー様を選ばなくてもいいじゃないですか」
ロベルダさんは言葉に詰まりました。何か思うところがあるのでしょうか?
キョロキョロと誰も居ない部屋を見回し、頬どころか体を真っ赤にして、ボソボソと呟くように訳を話し始めました。
「自分で言うのもなんだが、今まで碌な男に当たった例がないんだ」
「と、いいますと?」
「実家が金持ちの男とか、エリートの血統とかいう男、数人と付き合ったことがある。もちろんベッドも共にした。したのだが…………」
「下手くそだったわけですね」
ロベルダさんは恥ずかしそうに俯きました。
「今まで付き合った男達いわく、私は一度抱いたら忘れられない女らしい。
自分ではよくわからない。男を満足させるだけの魅力は持っていることは分かっているのだが……」
「逆に、自分が満足できる相手に出会えたことがないのですね」
「なので、普通の男とかいう奴らとも付き合ったことがある。
そしたら今度は、私に劣等感を感じるとかで長続きした例がない。自棄になって女を選んだこともあったが……」
「やっぱり女性よりも、男性の方がよいのですね。分かります」
「分かってくれるなら、そんなに距離を取るな。今も、これからも、女とそういう関係になるとか微塵も考えていないから」
私は部屋の隅からロベルダさんの隣に戻ります。椅子がキィィ、と鳴り、私の体重を受け止めました。私は決して重くありません。
「……なんか冷たくないか?」
「訳を知りたければご自分の胸に手を当てて考えてください」
ロベルダさんは不思議そうに手を胸に当てました。ロベルダさんの乳房は、その手を優しく受け止めました。
私はテーブルを挟んだ向かいに座っているロベルダさんから意識を外し、部屋を物色することにしました。
幸い、ロベルダさんは思考に没頭していて私の行動に気づいていません。
とりあえず目に付いたマーティさんの私物を漁ることにしました。
カチャっと留め金の外れる乾いた音と共に、マーティさんのクローゼットは開かれました。
「…………なにを、やっているんだ?」
そして、ようやく物音に気づいたロベルダさんが、不思議そうに私に顔を向けました。
ロベルダさんの言葉はもっともです。尋ねてきた少女が突拍子もない話を持ちかけた上に、許可を取らずに部屋を物色しているのです。
自分でも怪しいことこの上ないと自覚しておりますが、それでも私個人として、やらなくてはならないことが一つあるのです。
「見て分かりませんか? マーティさんの私物を漁っているのです」
「……それは見れば分かる。私が知りたいのは、何故漁っているのか、ということだ」
「ロベルダさんには一生理解できる日は来ないと思いますが、どうしても知りたければ胸に手を当てて考えてください」
また胸に手を? そう呟いたロベルダさんは、素直に手を胸に当てて、再び考え始めました。
その際、柔らか天然クッションが優しくロベルダさんの手を受け止めたのを、私は苦々しい思いで見つめました。
理由は何か? それは一つしかありません。
もしかしたら、もしかしたらマーティさんは私の仲間になれる人かもしれない。
その蜘蛛の糸のように細い光明に縋っているだけの話です。
浅ましく漁っていた私の右手が、クローゼットの中にあるものを捕らえ、私は一厘の望みを掻け、右手に掴んだ物を外界に引きずり出しました。
そして、叩きつける勢いで中に投げ入れました。
マーティさん、貴女もですか……。
学園エンジェルへの手引きのお礼と、アベさんへの感謝の思いがあったからです。
この日も、私を快く迎えてくれた姉さん達と挨拶を交わし、最後にマリア姉さんの自室を訪れました。
途中、今日は客を取っていないことを確認しましたので、気兼ねなくドアをノック、ノック。
客が居るとき、重要な用がない限り、まずノックしてはいけないのが娼婦達の鉄則です。
下手にジャマが入っては、興も冷めるというものでしょう。
「はいは~い、開いているわよ~」
中から明るい返事が返ってきました。私はさっそくドアを開けて中に入りました。
「お邪魔します……マリア姉さん、少しはシャキッとしてください」
後ろ手にドアを閉めます。
マリア姉さんはソファーの上でだらしない格好で寛いでいました。
「だって~、退屈なんだもん」
ダラダラとソファーに体を預けている姿は、女性として色々情けないものがありますが、そこはマリアマジック。
そんな姿でも、不思議な色気があるから神様って不公平。パンチラですか、パンチラが全ての鍵を握っているのですか?
とりあえず私もソファーに座ります。丁度、マリア姉さんの向かいに配置されているので、自然と向き合うようになります。
「どうだった? 無事にマーティさんに会えた?」
先に話を切り出したのはマリア姉さんでした。
「はい、何事もなく無事に会えました。アベさんも優しくしてくれて、思っていたより簡単に潜入できました。後でアベさんにお礼を伝えておいてください」
「は~い、伝えておくわ……それにしてもあいつは、本当に女性には優しいわね……男だったらノンケでも構わず突っ込むやつなのに……」
ボソボソとマリア姉さんは何かを呟いていましたが、どうせろくでもないことなので問い質そうとはしませんでした。
「それでは、用件も済みましたので、ここいらで」
用が済んだ私は、さっさと娼婦館を後にしようと思います。
それを止めたのは、やっぱり目の前の女性でした。
「ええ~~、せっかく来たのにもう帰るの? もうちょっと居てもいいんじゃない?」
口を尖らせてブーブーと言葉に出している姿は、図体の大きい子供です。というより、マリア姉さんはどこか子供のままで成長したかのように思えてなりません。
「その提案に賛成したいのですが、私にはマリー様の食事の用意をするという大切な使命があります。ですので、そろそろ帰って食事の用意をしなくてはいけません」
「上のお口が満足したら、その後は下のお口を満足させるのですか?」
ニヤニヤと気に障る笑みを浮かべて下品なことを言うマリア姉さん。コロコロ変わる表情、やっぱり子供みたいです。
しかし、私にからかいや冗談は通じません。
「下のお口もそうですが、後ろのお口も満足させてもらうつもりですが、何か?」
「……もう禁断のプレイやっているの?」
「いえ、まだそこまでは……しかし、指3本までは受け入れることができるようになりましたので、もうすぐ使えるようになると思います」
「……あんたって凄いわ、本当……」
なぜかマリア姉さんは絶句していました。
どこか変なことを言ってしまったのでしょうか?
お尻だって、慣れたら気持ちいいのに。というより、マリー様がしてくれることなら何でも気持ちいいのに。
食欲を誘う香ばしい匂いと音を立てて、もも肉は美味しい色へと変化していく。
「さすがはセレブ御用達のアレルビーストの肉。100g1万セクタは伊達ではないということですか」
程よく肉に火が通ったら、ひっくり返してもう一回焼きます。線状に出来た焼き色がとっても美味しそう。
それにしても、アベさんがくれた肉は、本当に良いお肉です。いったいこの肉をどこで手に入れたのでしょうか?
アベさんといえば、結局アベさんは何者なのでしょか?
最近溜まっているとぼやいていたので、娼婦館の方に話を通しておこうとしましたけど、断れてしまいました。不思議な方です。
普通、女を抱けると分かったら、男なら喜んで向かうものだと思うのですが……もしかしたら、アベさんはロマンチストなのでしょうか?
それとも、アベさんはゲイな方なのでしょうか……。
こんど、カズマとかいう男のことを伝えておきましょう。喜んでくれるかもしれません。
両面に火が通り、ほんの少しだけ、中に赤みが残る程度に焼きあがったところで、フライパンからお皿に盛り付けます。
既にお皿にはポテトとほうれん草のサラダを添えてありますので、見た目的にもバッチリでしょう。
マリー様も、涎を飲み込んで肉を見つめていました。その涎を私の喉に流し込んでくれないでしょうか……。
私とマリー様、二人向かい合って椅子に座り、手を合わせます。
「ふふふ、それではいただきましょう」
「うん、いただきます!」
手早くナイフで肉を切り分け、口に運んでいく。幸せそうに食べる姿を見ると、作った甲斐があるものです。
私もマリー様が一口飲み込むのを待ってから、食事に取り掛かります。
肉を一口分に切り分け、熱いうちに口に放り込む。肉汁が口中に広がり、肉の中に詰まったうま味がハーモニーを奏でます。
本当に美味しいお肉です。
「美味しいね、このお肉。おかわりって、できる?」
あっという間に肉を食べ終えたマリー様が、催促します。
「もちろん出来ます……少々お待ちください」
コンロに火を入れ、フライパンを熱します。冷蔵庫から肉を取り出し、コショウを振りかけながら軽く叩いて下ごしらえをします。
「マリー様、明日、予定を入れてますか?」
「うん? 入れてないけど、何かあるの?」
「明日マーティさんが来ますので、セックスしてあげてください」
「分かった。セック…………へ?」
背を向けていますので、今、マリー様がどんな顔をしているか分かりませんが、多分口を○の形にして呆けているのでしょう。
「私の知り合いに頼んで、マーティさんに連絡を取りました。明日ならココに来れるらしいので、火傷を治せると思います」
「……覚えてくれていたんだ」
「私がマリー様のことで忘れることはありません」
これだけは断言して言えます。今でも目を瞑ればはっきり思い出せます。
マリー様の笑顔、泣き顔、困った顔、快感に揺れる顔、固く膨張した陰茎、通常時の、妙に可愛らしい陰茎、全部覚えています。
「はは、なんだか照れるな……でも、どうしてマーティさんとエッチしなきゃいけないの?」
「そこらへんは色々込み入った事情がありますので、私の口からは言えません。マーティさんに聞くのが一番ですが……」
少し、言葉を濁す。少々、罪悪感を感じますが、優しいマリー様はこれで納得してくれるのです。
「分かっているよ……聞くつもりはありません。どういう理由かは知らないけど、とりあえずマーティを愛せばいいんだね?」
私は首を縦に振って肯定しました。やれやれ、これで肩の荷が下りたということです。
ハッピーエンドというやつです。
けれども、このときの私には想像もしてませんでした。
マーティさんが、予想以上の美貌の持ち主で、予想以上の肉体を持つ女性だったとは。
おまけにマリー様に惚れてしまい、私が危機感を抱き始めるようになるとは。
このときの私には夢にも思いませんでした。
アベさんの今後の活躍に期待します。
GJ!!!
GJ!!!
普通に超面白い
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なんかおもろいやつやらなんやら
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紳士な名無しさん 2016年01月02日 21:14:10
更新待ってるでー
快楽好きなな名無しさん 2016年01月07日 15:57:50
この小説の完成版?ならノクタにあるよ
もともとなろうだったからエロ要素はだいぶ減らされてるけど、微エロ要素がある普通の物語として面白い