個人的に超神スレ「レズいじめスレ」の超神作を。
このシリーズだけはSSを普段飛ばしてる人も読んで欲しい(切実)
いじめがテーマだけど「倍返しだ!」展開もあって爽快感があるんで、
胸糞系が苦手な人でも読める内容だと思う。
全部で6話!今週はこのシリーズを1日1話で連載!
■所要時間:25分 ■約17191文字
アブっぽいやつ寄ってく?
「【エロ小説・SS】超上流階級のお嬢様しかいない女子高に転入したら想像以上のイジメが待ってた・・・1発目」開始
空の靴箱を見ても特に思うところはない。ただ、またか、と無感情に冷えた心がつぶやいた
だけだ。ローファーの爪先を床に打ち付けて、文月はぐるりと視界を一巡させる。
広い――広すぎるほど広い昇降口は、山ひとつまるまる学園という広大な敷地を持つ礼染
女学院の中でも二番目に大きい、中高共通のものだ。この昇降口だけでも、学園の大きさが
うかがえる。
「ふう……」
かぶりを振って、文月は歩き出した。学校の昇降口とは思えない、荘厳な門をくぐって、一
度外に出る。くるりと振り返ると、宮殿か教会かと思うような建物が目の前に聳えていた。
中世風の装飾と造形、中央に屹立する時計搭が一際目を引く、礼染女学院第二本校舎。
やはり、中高共通の校舎である。
その校舎を見上げて、時計搭で時間を確認する。部活動を行う生徒はまだ早朝練習の最
中で、一般生は日直の業務などがあっても登校するには早い。そういう、隙間の時間帯であ
る。わざわざ誰もいないタイミングを狙って来たのだ。
文月はもう一度ため息をついて、校舎の中に戻った。中身のない靴箱を素通りして、昇降
口の奥まで向かう。指定の通学鞄を下ろして、そこから上履きを一足取り出した。先日購入し
たばかりの新品である。
「まったく、面倒なことをしてくれるわ……」
口の中でつぶやいて、その場で靴を履き替えると、ローファーを鞄にしまう。靴箱に入れてし
まうと、また面倒なことになりかねない。
鞄を持ち直して、文月は教室に向かって歩き出した。三階吹き抜けの多目的ホールを横目
に階段を登り、本校舎の東側、高等部教室の並ぶ区画に移動する。絨毯の敷かれた廊下を
音を立てずに進み、目的の部屋に辿り着いた。
言われなければ教室のものだとは思えない扉を押し開いて、文月は一年一組に踏み入った。
廊下に赤絨毯の敷いてある礼染女学院でも、教室の中はそう他と変わらない。個別の机が
四十並び、上下可動式のホワイトボードが前面の壁一面に設置されている。文月の知る学校
と違うところと言えば、後方でもボードが見やすいよう、段差がついていることくらいだ。
その最上段にまであがって、文月は大きく深いため息をついた。
日本屈指の名門私立である礼染女学院でも、通う生徒はそう他と変わらない。所詮十代、
所詮女子高生である。子供じみた嫌がらせのひとつやふたつ、あってもおかしくないのだろう。
礼染女学院に通いはじめて三ヶ月。文月の靴箱から上履きが消えるのは四回目。一年一
組から文月の机が消えるのは、これで二回目だった。
□□□
小学校から大学院までをフォローする礼染女学院は高校以下全寮制の名門校で、教師も
生徒も、事務員すらも女性のみで構成されている。全国から淑女候補の集う、お嬢様御用達
の巨大学園である。
有瀬文月も、この春から高等部に編入してきた。日本の家電三割を掌握するといわれるAL
ICEグループの一人娘として、名門出身というステータスを求めての入校である。それ自体は
珍しくないが、礼染は一種の隔離社会であるため、外来者はあまり歓迎されない。
とはいえ、ここまでの酷遇を受けるとは、文月も思っていなかった。
文月への嫌がらせがはじまったのは、編入から一月ほど経った五月、連休が明けてすぐの
頃だった。上履きを隠す、テキストに落書きをする、寮の個室にゴミを投げ入れる、なんてかわ
いい悪戯ばかりだが、わざわざ机を取りに倉庫まで来なければならないのは苦痛だ。
「エスカレートしてる……かな」
対処するならばこのあたりだろうが、さてどうしたものか。下手な密告は逆効果にしかならない
だろうから、方法を考えなければならない。
自分の背丈にあった机を探す。さすがというべきか、倉庫といえどかなりの広さがあって、無駄
にきらびやかな装飾が施されている。建物に併設されている故か、扉も一見そうとはわからな
いほど豪華だ。
「ええと……ん?」
適当な机を選んだところで、背後から足音がした。振り返ると、朝陽を背負って、逆光になっ
た影がこちらを向いて仁王立ちしている。
「おはようございます、有瀬さん」
刺々しい声だった。そのくせ流麗で、透きとおるように美しい。ウェーブがかった金の髪が陽
の光を反射してきらめくのが、倉庫の中からよく見える。
「……おはよう、伊勢宮さん」
苦笑交じりに、文月はそう応えた。それ自体が発光しているようにすら見える、輝かしいばか
りの『黄金』の髪を揺らして、人影が一歩進み出る。薄暗い倉庫の中でさえ、彼女の姿はきら
めいていた。
伊勢宮アリス。ゆらめく黄金の髪に鋭い碧眼、日本人離れしたスタイルを誇る、英国系クォ
ーターの帰国子女である。成績も優秀ならスポーツも万能で、日常の所作すら優雅さで満ち
ている。非の打ち所のないお嬢様だ。
残念なのは、つまらない同級生いじめなんてものに精を出していることで、特に文月にとって
は、それは他の長所を全て打ち消す最悪の欠点だった。
「こんなところで、一体何をしてるんですか?」
碧眼がこちらを睨みつけてくる。まるで凍りついた炎のように、怒りに震えているようだった。よ
くよく見れば、細く長い足も肉付きのいい尻も、組んだ両腕も微妙に震えている。本当によほ
ど怒っているらしい。
「教室に机がなかったから、取りに来たのよ」
「……そうですか。上履きはどうしたんですか?」
「どうしたっていうのは? どういうことかしら」
「これ、たまたまそこで見つけたんですよ」
そう言って、一足の上履きを取り出してみせる。この暗さこの距離ではわからないが、文月の
ものなのだろう。
「ああ、そうなんだ。上履きもなくなっていたから、新しいのを卸したのよ」
「有瀬さんの持ち物は、勝手にいなくなる癖があるんですね」
「らしいわね。誰かに魔法でもかけられたんじゃないかと思うんだけど」
「呪いの間違いでは?」
つまらなそうに言って、アリスは手にした上履きを放り棄てた。わざわざ思い切り踏みつけて、
倉庫の中に歩を進める。
「そろそろ聞いておこうと思ってたんだけど、私に、何か恨みでもあるわけ?」
積み重なった机からひとつを選んで床に下ろし、その上に椅子を逆さまに乗せる。それから
両脇を抱えて、よいしょ、と文月は机を持ち上げた。
それらの行動が終わるまで碧眼を細めていたアリスは、小さく吐息をついてから、まだ震えて
いる腕を震えている手で押さえる。当然、それで震えがおさまるはずはない。
「あなた個人には、恨みというほどのものはありません……でしたね」
「過去形?」
「ええ。今となっては、あなたの全てが恨めしいですよ。あなたがそんなふうだから――面倒ば
かり起こる」
「面倒というか、問題を起こしてるのは伊勢宮さんじゃないの? 学校的には」
「そんなことはありえませんよ」
いい距離にまで縮まった二人が、黒い瞳と碧い瞳を真正面から交差させる。
「いい加減、私もうっとうしいから、行動に出るけど」
「そうですか。残念です」
「何が?」
「あなたが悪いんですよ、有瀬さん。かわいい悪戯のうちに、大人しくなっておけば良かったの
に。上履きなんて買ってくるから、机なんて持ってこようとするから、こんなことになるんです」
「それはまた、随分自分勝手な言い草ね」
言いながら、文月は一歩下がった。ゆっくりと、机を床に下ろす。嫌な予感が背を這い回っ
ている。そも、アリスは表立って行動することは殆どなかった。悪戯の主犯がアリスであることは
気がついていたが、今までのいじめは隠れてこそこそと行う類のものだった。正面きってアリス
と文月が対峙するようなことはなかったのだ。
「何、する気?」
「あなたが悪いんですよ。わたくしだって、こんなことはしたくないのだから」
白く細く長い、芸術品のような指が、文月が下ろした机を押し出す。背後に積まれた机と自
分が下ろした机に挟まれて、文月は小さくうめき声をあげた。
「地味だねえ」
言葉は、二人のものではない。倉庫の入り口から響いてきた。文月が目をやると、極端に小
さな影がひとつ、その隣に、極端に高い影がひとつ、逆光を背に立っていた。
「イセミヤ、もうちょっと派手にやんない? そんくらいじゃ参らないよ、そいつ」
くすくすと笑いながら、背の低い影が倉庫に踏み入ってきた。ブラウンの癖っ毛を短くまとめ
た少女。まるで中学生か、下手をすれば小学生かという外見だが、制服は高等部のものだ。
隣の影が無言で進み出る。黒く長いストレートヘアに、すらりとした肢体。アリスとは対照的
に、日本人的な美を思わせるスタイルだ。やや険の強い瞳が、アリスと文月を見つめている。
三人。閉鎖された空間。これはまずい、と文月の頭の中で警鐘が鳴りはじめる。表情の変わ
った文月の顔を見て、背の低い影がまた笑い声をあげる。
「もう遅ェよ」
扉の閉まる重々しい音が、暗い倉庫の中に響き渡った。
「人を呼ぶわよ」
――などという無駄な言葉を、文月は吐かなかった。叫んでもどうせ誰も来ない。倉庫はそう
いう場所に設置してあったし、壁も扉も厚すぎる。なにより、今は極端に人が少ない時間帯な
のだ。出来ることといえば、机と机に挟まれた状態から脇に逃げ出すのがせいぜいで、それに
したって袋小路には変わりない。
「こ、幸崎さん」
背の小さい方に向かって、なぜかアリスが戸惑うような声をあげた。その名前は文月にも覚え
がある。幸崎幸。隣のクラスの女子生徒だ。合同体育の際に活躍していた記憶がある。
してみると、もう一人も同学年だろうか。しかしこちらは、顔を見ても誰なのかわからない。こん
なに綺麗な黒髪ならば、一度見れば忘れなさそうなものだが。
「そらイセミヤ。お前がやらなくちゃ意味がないだろ。積年の恨みを晴らしてやれよ」
けらけらと笑って幸崎が言う。個人的な恨みはないとアリスは言っていた。積年、というのもお
かしい。文月が学院に来たのはほんの三ヶ月ばかり前なのだ。自分の知らないところで話が
進んでいる。
「……」
唇を引き結んで、アリスが身を乗り出す。引くに引けず、行くに行けず、文月は体を固くして
待つしかない。振りあがったアリスの細い右手が、風を切って振り下ろされる。
パアン、と頬を張る音が響いた。
肉体的な痛みを受けたのは久しぶりだ。じんじんと左頬がしびれている。痛みをおして視線
を向けると、張り手を打ったアリスの方が、痛そうな顔をしていた。
「ぶはっ、マジかよイセミヤ! それはショボすぎるだろ! 誰もマンゾクしねーよそれじゃ!」
愉快そうに手を叩いて、幸崎が笑う。名門にあるまじき言葉遣いだ。文月が細めた目を小さ
な背に向けると、幸崎もすぐに気づいて笑うのをやめた。
「あのなあイセミヤ。優しいのはいいけどさ、あたしらはお前のためにわざわざこんなことしてん
だぜ? もっと頑張ろーや。憎いALICEグループの一人娘なんだぜ、こいつは」
「……」
「しょうがねえな、踏ん切りがつかないなら、お手本見せてやるよ」
にやにやと笑って幸崎が進み出る。アリスを押しのけて文月の前に立つと、人懐っこい笑み
を浮かべた。
幸崎は本当に小さい。百四十センチ半ばほどだろうか。文月も背が高い方ではないが、そ
れでも並ぶと同年代とは思えない。長身の女子生徒と比べると、頭ひとつ分は差がある。そん
な幸崎が無邪気に笑うと、本当に子供を相手にしているような錯覚に見舞われる。
だが、そんなほのぼのとした幻想も、次の一瞬までだった。
「おらっ!」
やや気の抜ける掛け声と共に、どぼっ、という妙に鈍くて重い音が、腹の奥から響いた。人
間の体内から聞こえる類の音ではない。
「ぐ――」
息が詰まる。体の中心から背骨を伝って、衝撃が伝播する。ぐらりと視界が揺れるにいたっ
て、文月はようやく腹部を蹴られたのだと気がついた。
「お、意外と平気なツラしてんな!」
笑って、幸崎が足を構えた。上履きの裏側が見える。あれをそのまま、おなかに向かって叩
きつけるつもりなのだ。避けなければ、と思ったが、そんなことが出来るはずもない。
二発目は、腹部よりやや上、肺の下あたりを強打した。
「っは――か、っ、がはっ」
呼吸が止まる。たまらず体を折ると、下から上へ、サッカーボールを高く飛ばすような蹴りが、
やはり肺の下、全く同じ箇所を狙って放たれた。つま先が肉にめり込む感触が、酸欠でふら
つく脳髄に嫌にリアルな映像を浮かび上がらせる。
気がつくと、文月は膝をついていた。肺が酸素を求めて急激に動き出し、体がそれについて
いけずに咳を繰り返している。どこでおさえればいいのか熟知しているのだろう、幸崎は咳が
おさまるまで、にやにやと文月を見下ろしているだけで何もしようとはしない。
「く……」
あまりの痛みに視界がぐるぐると揺れている。どうにか呼吸を整えて顔をあげると、待ち構え
ていたように、幸崎が体重をかけてその頭を踏みつけた。
「ほらっ、頭さげろ! ひざまずけ!」
「うぐ――」
耐え切れるものではない。冷たい床に頬が押し付けられ、散らばった黒い髪を幸崎の左足
が踏みつける。頭蓋の形が変わるのではないかと思うほどの圧力をかけながら、幸崎はこらえ
きれないように笑った。
「ぶはっ、みじめだな、おい!」
「……っ」
確かにみじめではあったが、文月は余計なことを言って狼藉者を喜ばせるようなことはしなか
った。ここは学校、今は早朝、ほんの十数分か数十分かを耐えれば、自然とこの凶行も終わ
るのだ。
るわれれば、事を表ざたにすることに躊躇もない。文月はこの時点で、解放されたらその足で
学長室まで出向くつもりでいた。
「幸、睨まれてる」
「あ?」
そこで、黒髪の女生徒がはじめて口を開いた。クールな外見に相応しい、鋭く深い、闇色の
剣のような声だった。
「すげー本当に睨んでる。元気なお嬢様だな。月小路、あんたもやる?」
「いい。それより、アリスにやらせてあげないと」
「ああ、そうだったな」
月小路。長身の女生徒はそんな名前らしい。文月は頭の名簿を参照したが、やはり記憶に
ない。礼染女学院の規模に、入学三ヶ月という期間を考えれば、同学年であっても知らない
生徒がいることは不思議ではないのだが。
「イセミヤ、ほら」
頭に乗せた足はどかさないまま、幸崎が手招きする。踏みつけられている文月からはよく見
えなかったが、床に密着した耳元から頼りなげな足音が響いてくるのはよく聞こえた。
「こういうのは苦手なんだよな?」
「あ、あんまり……」
ぐりっ、と足を捻りこみながら、幸崎が笑う。帰ったら頭を洗わなくては、と、文月はやや場違
いなことを考えた。
「なら、お前の得意なやり方でいいよ。あるだろ?」
頭蓋を圧迫していた足が、ゆっくりと離れる。開放感から小さく吐息をついて、文月は上半
身を起こした。頭痛がひどい。暴虐に晒されたのは腹と頭だけのはずだが、全身を波のような
鈍い痛みが浸している。
「なあ、イセミヤ……」
にやにやと笑いながら、幸崎がアリスに近寄る。耳元に唇を寄せて、何事かつぶやいた。
「……だろ?」
「……!」
一体何を言ったのか、文月には聞き取れない。ただ、愕然と目を見開いたアリスの表情が―
―瞬く間に激情に彩られていく彼女の表情の変化が、鮮烈に脳に焼きついた。
「あなたが……悪いんです……!」
つぶやいて、踏み出す。ゴム製の上履きが倉庫の床を打った音は、やけに高く重い響きの
ように感じられた。
「手伝うぜ。まずどうするよ?」
「剥いてしまいましょう」
当然のように、アリスはそう言った。直接的な言葉に背筋が寒くなる。暴力ならば耐えられる。
精神的なものでも、折れない自信がある。だが、自分自身にとってすら未知の領域に踏み込
まれるとなると、恐れずにはいられない。
「いきなり裸にするのか?」
「有瀬さんは、そういうのに耐性がなさそうです。だからまず、一番わかりやすい方法で、これか
らどうなるのか知ってもらうのがいいと思うんです」
「なるほど。さすが慣れてる奴は違うね」
「……そういうことを言うのは、やめてください」
文月は痛む体を無理に起こして、ふらふらと後ずさった。逃げなければいけない。だがどこ
に? 薄暗い倉庫の中、同年代の三人に囲まれて、唯一の出口は重い扉が口を閉ざしてい
る。始業時間まではまだ遠い。
文月にできるのは、舌を動かすことだけだった。
「あ?」
「法的な手段に訴える、と言ったのよ。先に言うけど、あらゆる種類の脅しは無意味だと思って
ちょうだい。私は、そんなに柔な神経していない」
幸崎と月小路が顔を見合わせる。小さく吐息をついて、アリスがかぶりを振った。
「……有瀬さん。もう遅いんですよ」
そうして、真正面から文月の目を見据えて、引き結んだ唇を噛み締め、一度視線を足元に
下ろし、それからまとわりつく余分なものを振り払うように勢いよく顔をあげ、
「幸崎さん、お願いします」
伊勢宮アリスは凌辱の開始を告げた。
「――っ」
誰より早く動いたのは文月だった。出口に向かって全力で疾駆する。無駄だとわかっていな
がらも、これが出来る唯一の抵抗だったのだ。
幸崎が素早く反応したが、位置取りと体躯が悪かった。伸ばした腕は短すぎて文月の服を
つかめない。一直線に扉を目指す文月は、いっそ美しいまでのフォームで倉庫を駆ける。
「はっ、はっ、はぁ――っ!?」
その視界が、がくんと揺れた。一瞬の浮遊感の後に、視野をいっぱいに埋めて倉庫の床が
迫ってくる。受身も取れず、文月はそのままうつぶせに倒れこんだ。
「元気な奴だ」
肩越しに視線を向けると、月小路がつまらなそうにこちらを見ていた。足をかけられたのだ。
すぐに幸崎が走りよってきて、わき腹を蹴り上げた。また呼吸が止まる。体の中心に細い足
が入り込んで、それがすぐさま勢いよく跳ね上がった。視界がぐるんと回って、うつ伏せから仰
向けに転がる。
「ナメた真似してんじゃねーよ!」
どすっ、と今度は頭ではなく喉に、幸崎の足が降ってきた。
「ぁ――」
目を見開いて、文月はビクンと背を仰け反らせた。一秒も持たず、手が床を叩く。苦しいな
んてものじゃない。目を見開いているにも関わらず何も見えない。首から上が体から切り離さ
れているようだ。脳が沸騰する。視界が白濁して、赤く明滅する。
「ふんっ」
「――がはっ、はっ、あっ、げほっ、」
足が離れると同時に、文月は勢いよく咳き込んだ。喉が痛い。首の骨がギシギシと悲鳴をあ
げている。
「大人しくしてろよ。そうすりゃ、イセミヤが主体になれるんだ。少しは優しくしてくれるだろうよ」
腹の上に座りこんで、幸崎が手を伸ばす。首を絞められると思ったが、その手はセーラー服
の方へと伸びていく。文月はここでやっと、先のアリスの言葉を思い出した。
「まっ……」
「聞こえねー!」
指先が襟元に入り込み、引きちぎるようにスナップを外す。身を捩って逃げようとするが、幸
崎が太腿で体を挟み込んで来る。こんな小さい体のどこにそんな力があるのか、文月がどう力
をこめても幸崎を引き剥がせない。
「動くな!」
左手が喉を締め付ける。先の一撃ほど強烈ではなかったが、息が詰まって視界が歪む。そ
の間に、幸崎は着々と作業を進めていく。左側の裾から脇にかけて走っているファスナーを器
用に片手で引き上げ、胸当てを外してしまうと、幸崎は左手を放して腰を浮かせた。
指先をまげて月小路を呼ぶと、長い黒髪を揺らして長身の影が歩みよってくる。二度にわた
る呼吸責めで脱力している文月の手を取ると、月小路は無言のままそれを頭の上に持ってい
く。少しだけ力をこめて腕を持ち上げると、上半身がつられて浮いた。
「それっ」
透け防止に着込んでいたインナーも一緒に、幸崎の手が勢いよく夏用の薄いセーラー服を
引き上げる。踏み躙られて汚れた髪を巻き込んだあたりで、裾を月小路が受け取り、一気に
引き剥いだ。
一分とかからず、文月は半裸にされてしまった。後に残ったのはシンプルなハーフカップの
ブラのみだ。不健康でない程度に白い肌が薄汚れた倉庫の床に横たわっている様は、それ
だけでいやに淫猥な印象を受ける。
「下も、一気にお願いします」
心得ていると言わんばかりに、幸崎がフックを外す。やはり片手でファスナーを下ろすと、そ
のままスカートを引き下げる。鮮やかとしか言いようのない手並みだった。
「かわいいパンツ穿いてるな、こいつ」
「……そうですね」
ブラジャーとおそろいのショーツはやはり白いシンプルなものだが、両端にワンアクセントで水
色のフリルがついている。文月の印象からすれば、なるほどかわいらしい選択だ。
「でも、それも脱がしてしまいましょう」
「ぅ……!」
腕の力だけで後退する文月を見て、いよいよ面倒そうに幸崎がため息をついた。それから何
かを思いついたように、制服からピンク色の携帯電話を取り出した。ファインダーを文月に向
けて、にやりと笑う。
「いい加減あきらめろよ。楽しいのはこれからなんだからさ」
撮影音と共に、フラッシュが三度瞬いた。
同年代の女性を裸にするという、一種異様で倒錯的な状況に興奮しているのか、幸崎は頬
を上気させて下着に手を伸ばした。丁寧に脱がすようなことはなく、引きちぎるような勢いで乱
暴に毟り取る。
「――っ」
アリスのような豊満さはないが、小ぶりで形の良い乳がふるんと揺れて顔を出す。掌にほどよ
くおさまる程度の大きさと、中央で身を震わせる桜色の突起がかわいらしい。
「かわいいおっぱいだねえ。どうよイセミヤ?」
「どうと言われても、困ります……」
「ちぇっ、つまんない奴だぜ」
そう幸崎がつぶやいて肩をすくめた、その一瞬に、文月は勢いよく立ち上がった。ほぼ全裸
なのにも構わず、扉に向かって走り出す――が、あっさりと月小路にその腕を取られた。
「幸、二回目だぞ」
「いまさら逃げるか? 元気すぎだろ」
「放しなさい!」
身を捩り手を振って逃れようとするが、これまでに体力を奪われきっている。月小路が何をす
るまでもなく、抵抗は徐々に弱まっていった。背後に回った月小路が両腕を交差させて強く
掴みあげると、もう文月にはどうすることも出来なかった。
「押さえといてくれよ」
そう言って、幸崎の指がやけにゆっくりとショーツの端にかかった。横に引いてゴムを伸ばす
と、少しずつ、少しずつ、指を押し下げていく。
「ほらほら、見えちゃうぜ」
「うるせえな」
文月はぎろりと幸崎を睨みつけたが、出来るのはそれだけだ。暴れるほどの体力は残ってい
ないし、制止の言葉に意味などない。フリルの飾る白いショーツが引き下ろされていくのを、黙
って見ているしかなかった。
肌と布の間に出来た隙間から、風が吹き込んでくる。七月だというのに、とても冷たい。場所
の問題か、気候の問題か、それとも、気持ちの問題か。文月には判断がつかなかった。
「ごかいちょう!」
下着をふくらはぎのあたりまで下ろして、幸崎は喜悦に満ちた声をあげた。
「……」
ごくり、と唾液を飲み込むのを、アリスは自覚した。それほど、文月の体は美しかった。
特別鍛えられているわけでも引き締まっているわけでもないが、過度な贅肉をつけず、女性
的な柔らかさと丸みを帯びた、『抱きたい』と思わせる体だ。
健康的な色気をかもす鎖骨から、柔らかさと張りを兼ね備えるツンと上向いた乳房、その頂
点に顔を覗かせる小さめの乳輪と桜色の突起、見てわかるほどの筋肉はないがたるむほどの
贅肉もない腹筋、きゅ、と身を縮こまらせる臍、なだらかな曲線を描く下腹部、そして更にその
下方、淡い茂みへと視線を下ろしていく。
「毛、薄いなぁ」
にやにやと陰部を見つめていた幸崎が、そうつぶやいた。普段人前に晒さない部分をあけ
すけに評されて、文月がかすかに目を細める。
「……わたくしにも、見せてください」
「おう」
ゆっくりと歩み寄って、アリスは文月の足もとにしゃがみこんだ。月小路に手を掴まれて立た
されている文月は相変わらず視線を逸らさず、真っ向から二人を睨みつける。
「……」
ほう、とため息をついて、アリスはまじまじと文月の体を見つめた。その指先が慈しむように下
腹部に置かれ、体の曲線を辿って陰部へと辿り着く。ちぢれた陰毛の毛先を指先で弄んで、
アリスはこらえきれないようにつぶやいた。
「足を開いてください」
「……っ」
「おい。開けよ」
舌打ちまじりの催促に、文月はゆっくりと、肩幅まで足を開いた。幸崎の言うとおり、年齢の
わりに文月の陰毛は薄い。茂みは陰唇上部から放射状に広がっているが、その奥の肌がか
すかに見て取れる程度の、淡い翳りでしかない。幸崎の指がうちの一本をつまみ、軽い仕草
で引き抜く。
「――つっ、」
小さな悲鳴に笑い声をあげて、薄がりに陰毛をかざす。細く短い、童女のような毛だった。
「んじゃ、記念撮影な」
先ほどと同じように、ピンクの携帯電話が撮影音を響かせる。局部のアップを数枚、カメラを
引いて、局部と顔が写るようにしたものを更に数枚。
「笑えよ」
という要求には、さしもの文月も応えることができなかった。
「幸崎さん、写真見せてあげてくださいよ。綺麗に撮れました?」
「おー。ほら」
顔を寄せ合って、二人が液晶を覗き込む。それから、幸崎が手首を返して文月の眼前にそ
れをつきつけた。
ら足を開き、疎毛の性器も唇を噛んだ顔も、桜色の乳首も全てつまびらかに晒された、みじめ
な写真だ。
「どうよ」
「悪趣味ね」
即答である。一瞬だけ呆気にとられたように目を見開いて、それから幸崎はけらけらと笑い
声をあげた。
「本当、元気なお嬢さまだよ」
「元気なほうが、色々と楽しいらしいですよ。わたくしはそう聞きました」
言って、マニキュアも塗っていないのにつややかな光沢を放つ爪の先を、眼前の秘裂へと
近づける。生育は十分だがろくに触れられたことのない秘部は口を閉ざして、恐々とこちらを
伺うように襞が顔を覗かせている。
つぷっ、
と、いう擬音を幻聴する。爪の先が秘裂を割り開いて、人差し指の第一関節までが潜りこむ。
ぴくん、と尻を震えたのを見てアリスは上を見上げたが、文月は相変わらず鋭い視線をこちら
に向けるばかりで、羞恥の表情ひとつみせない。
「ほらほら、もっとかわいい顔しろよ」
言いながら、幸崎の指がシャッター音を連続させる。瞬くフラッシュに目を細めて、それでも
文月は顔を逸らそうとはしなかった。
「有瀬さん、ここ、自分で触ります?」
指の先を捻りながら、襞の内側を撫でていく。時折体を震わせ腰を浮かせながら、文月はつ
まらなそうに言い放った。
「自慰をするかということかしら? するわよ」
「本当ですか? いやらしい」
「生理現象の一種よ。恥じ入るほどのことじゃないわ」
声も表情も平静そのものだ。こいつ本当に女子高生か、と幸崎は心中つぶやいた。
そんな幸崎の、声に出さない賞賛に気づくはずもなく、文月はひたすらに耐えていた。言葉
の通り、自分で慰める程度のことは彼女もするが、それにしたって指で外縁を弄る程度のかわ
いいものだ。その先、その奥に関しては完全な未知である。
見た目ほど落ち着いているわけではない。恐怖は確実に文月の心を蝕んでいた。
「……えいっ」
それを見透かすように、アリスが両手を秘部に添える。左右の人差し指が秘裂にもぐりこみ、
くぱっ、と最奥への門を割り開いた。連続するフラッシュが暗い倉庫の中に文月の秘部を浮
かびあがらせる。
文月のそこは、色素の沈殿もほとんどなく、ピンク色の襞が折り重なって、禍々しくも淫靡な
肉模様を描いていた。外気に晒された尿道と膣口がヒクヒクと震えているのが見て取れる。
「グロいねえ」
「そうですね。……なんて醜い」
誰にも見せたことのない、まだ誰にも見せるつもりのなかった秘奥を暴かれ、あまつさえ同性
に醜いと評される。惨めで、情けない。文月は二人に気づかれないよう、唇を少しだけ強く噛
み締めた。
「お前、処女?」
「処女よ」
幸崎のストレートな質問に、文月はやはり即答する。何が面白いのかけらけらと笑って、幸
崎は膣口の付近に指をぐりっ、と押し込んだ。
「へえ、処女かあ。かわいそうにねー」
乱暴な指使いで膣を捏ねる幸崎に、文月は険の強い眼差しを送る。今ここで処女を破られ
るのかと思うと少しは悲しかったが、そも文月はそこまで処女性を重んじているわけではない。
単に苦痛で屈辱あるという以上の意味は、ないとは言わないが、薄い。
「で、どうするのさ、イセミヤ」
興奮を隠そうともせずに、幸崎がアリスを振り返った。顔を並べて秘所を覗き込んでいたアリ
スが、少しだけ目を細める。
「有瀬さん、自分がなんでこんなことになってるのか、わかりますか」
「わからないわ」
「本当に?」
「本当に。正当な……少なくとも、理解できる理由が、存在するのかしら」
「……いえ、貴女にはきっとわからないでしょうね」
つぶやくように言って、アリスは淫裂を広げていた指を放した。若い秘裂が元通りに口を閉
ざす。外気にさらされていた膣口が肉門に塞がれたのを感じて、文月は心中吐息をつき――
「いぎっ……!」
――その緩みを、アリスの指が貫いた。
衝撃についで猛烈な熱が股間から沸きあがる。体の中心を炎が駆け上り、頭蓋を焼いて頭
頂部から突き抜けていく。体が一度大きく跳ねて、肺の中身が全て喉から迸る。にも関わらず、
言葉どころか音にもならない。
「痛いですか?」
ぐらぐらと揺れる視界に、またぐらに指を突きこんだアリスが見える。少し後ろにさがった幸崎
が、また携帯電話を構えてシャッターを切っている。
「ぐ……!」
「答えてください。痛いですか?」
聞きながら、アリスが手首をひねった。潜りこんだ指に膣がかき回される。体全部が手首にあ
わせて捻られるような錯覚に、文月は思わず眼を閉じた。
「さすがに効いてるな」
笑いながら、幸崎がそんなことを言った。
「ねえ、痛いんですか?」
「あぎぁっ……ああっ」
突きこまれた指が――二本か、三本か――膣の中でバラバラに蠢いた。これまでどんな存在
も触れたことのない未踏の肉道を、アリスの細い指が蹂躙していく。体の内側を引っ掻き回さ
れている未知の感覚に、文月は倒れそうになるほどの眩暈を覚えた。
「処女膜って」
と、アリスがつぶやいた。
「指を入れる程度では、破けないこともあるんです。だから、ちょっと念入りにかき回しておきま
すね」
「……っ!」
悲鳴をこらえて、文月は爪先に力を入れた。これ以上されたら本当に倒れてしまう。膣から
際限なく湧き上がる痛みと灼熱は、脳髄を焦がして思考回路を焼ききっていく。自分の状態
がほとんど認識できない。肺まで燃やされているのか、吐く息がやたらと熱い。
「ん……もうちょっとで、全部入りますよ」
「ぜん……!?」
全部。ということは、今はまだ途中なのか。体の内側に感じているこの強烈な異物感。これで
まだ入りきっていないというのだろうか。女子高生の細指でこれほどの圧迫感があるのならば、
男性器など入るはずがないのではないか。
「それっ」
「はぐっ、あ、ぎ……!」
びくん、と体が跳ねる。一際大きい衝撃。視界が真っ赤に染まって、開ききった口から乱れ
た呼気が漏れる。
「ちゃんと立て」
背後の月小路がそう言って腕を引き上げた。そこで初めて、文月は自分が膝を折っている
ことに気がついた。
「全部入りましたよ。わかります?」
言いながら、細い手首をくるくると回す。まるで濡れていないのに、肉と肉のこすれあう音が
脳内に響き渡った。ぐちぐち、ぐちぐち、というそれは、淫猥であると同時に酷烈でもある。
「はっ、はっ、は、ふっ、」
視界が揺れている。呼吸が落ち着かない。文月は気づいていなかったが、全身が汗だくだ
った。
……そんな文月を見て、アリスは指を止めた。膣の中で曲げていた指をゆっくりと真っ直ぐに
戻し、被虐の対象が回復するのを待つ。背後でひたすら撮影音を響かせている幸崎に視線
を投げると、幼い瞳を一度携帯電話に落として、それから名残惜しそうに頷いた。
そろそろ時間だ。生徒たちが登校してくる。
「今日は、このあたりですね」
つぶやいて、アリスはゆっくりと指を引き抜いた。落ち着きはじめていた文月が、指を抜かれ
る感覚にまた背を反らせる。
「はい、あーん」
「はっ、はぁ……んぐっ!?」
脱力して唇を閉じることもままならない文月の口内に、三本の指が突きこまれた。舌の上に
広がる鉄の味に、思わず眉をしかめて頭を仰け反らせる。
「ちゃんと味わってください」
だが、指はそれを追って舌の上を這いずってきた。鉄……血液の味。考えるまでもない。こ
れは自分の膣から流れ出した、純潔の証――否、純潔を喪った証だ。
「おいしいですか?」
「――っ」
「痛っ」
指先に走った強烈な痛みに、アリスはあわてて指を引き抜いた。血と唾液に濡れた指先に、
小さな歯型がついている。幸いにしてアリス自身の血は出ていないようだ。
「噛まれたの?」
「……はい」
「ははっ、お前ほんとすげーな」
口にたまる血を吐き出す文月を見て、幸崎がまた笑い声をあげる。携帯電話をしまって歩
み寄ると、トン、と軽く地面を蹴ってから、体をひねりつつ大きく踏み込んだ。左足が鞭のよう
にしなり、風を切って飛ぶ。避けることも受けることも、身を捻ることすら出来ず、文月はその一
撃をわき腹に食らった。
「う、ぐ――」
「おしおきだ、おしおき」
今度こそ、文月の膝が折れる。もう立ち上がる気力も残されていないようだった。
「限界、腕が疲れた」
そういって、月小路も腕を放す。前のめりに倒れる文月を受け止める者は誰もいない。冷た
い倉庫の床に倒れ伏して、文月は小さくうめき声をあげた。
「ええ、大丈夫です。……それじゃあ、行きましょうか」
文月の体を避けて、アリスたちは倉庫の出口に向かって歩き出した。すぐ側に捨てられてい
る文月の制服を幸崎がわざわざ踏みつけて、それから下着だけを回収していく。
「下着は没収な」
そう声をかけて、幸崎はいつものようにけらけらと笑った。
「ああ、そうだ。有瀬さん、法的手段に訴えるんでしたっけ?」
「……」
その言葉に、文月はゆっくりと体を起こした。出口付近にいる三人を見据えて、薄く笑う。
「そうね」
「笑ってるよこいつ」
ひきつった笑みで幸崎がつぶやいた。
「そうですか。……気を強くもってくださいね。この程度で折れられてしまっては、わたくしも困り
ますから」
「……どういうことかしら」
「どういうことでしょうね」
頭を振って、アリスは外へと続く扉を開いた。陽が、まるで光の道のように倉庫に差し込む。
「それじゃあ有瀬さん。放課後、また遊びましょう」
最後にそう残して、三人は倉庫を出て行った。
■■■
有瀬文月は、三人が思う以上に精神的にタフな人間である。
倉庫に独り残されて、三十秒だけ落ち着くための時間をとると、すぐさま制服を身につけ、
可能な限り外見を整え、股間の痛みなどないかのように大股で倉庫を後にし、堂々と廊下を
闊歩して一直線に学長室まで向かった。
幸い在室していた学長に、一礼して挨拶を述べた後、
「レイプされました」
と、端的に口にする。ここまで、わずかに三分弱である。
「……なんですって?」
突然現れた生徒にそんなことを聞かされた学長は、眉をひそめて、そう無意味なセリフを返
すのが精一杯だった。文月は一度頷いて、同じ言葉を繰り返す。
「伊勢宮アリスさん、幸崎幸さん、それから、私は彼女をはじめて見ましたが、月小路さん。彼
女らに性的暴行を受けました」
「い、いつ?」
「五分ほど前です」
「……」
不可解そうな顔が、ますます歪められていく。無理もない話だった。女子校で性的暴行とい
うだけでも戸惑うには十分だというのに、被害者が五分もしないうちに報告に来るなど冗談と
しか思えない。
「必要であれば証拠を――」
「ああ、いや」
なおも言葉をつのろうとした文月を、学長は手をあげて制した。一度小さく咳払いをして、
「わかったわ。詳しいことは不明だけれど、概ね理解しました」
「今の説明で十分ですか」
「十分よ。事件の詳細はわからないけれど、そんなことはどうでもいいもの」
革張りの豪華な椅子に背を預けて、学長は深い吐息をついた。その仕草に、今度は文月
が眉をひそめる。
「伊勢宮さんも、幸崎さんも、それに月小路さんも、初等部からここに通っている、とてもいい
家のお嬢様たちよ」
「……それが?」
意味がないので口にはしないが、お嬢様の度合いならば文月も負けてはいない。この学院
に通う生徒は、みな似たようなものだ。
「わからない? 初等部からここにいるということは、あなたの何倍もの時間をここで過ごしてい
るということ。それはつまり、」
文月の背を、悪寒が走り抜けた。
「寄付金の額も、何倍にもなるということよ」
当たり前のような顔をして、学長はそう言った。デスクの上の書類を取り上げて、つまらなそう
に眺める。それで話は終わりと言わんばかりだ。
「……警察に行きます」
「無駄よ」
即答である。まるで切り捨てるような口調だった。
「あなたは少し、この学院を甘く見ているわね。意味がないからやめなさい、そんなこと」
「では、どうしろと」
「あきらめなさい。新参者は大人しくしているのが一番よ。ここに限らず、それは社会に出ても
同じことだわ」
「……ひどい学校ですね」
「私立学校っていうのはね、営利団体なのよ。学内でいじめなんて、困るわ」
ひどく冷たい眼差しで、学長は文月を見据えた。手にした書類をデスクに放って、ため息を
漏らす。
「家の力に頼るならそれでもいいわよ。ALICEグループなら、まあ、なんとかなる範囲でしょう」
「……よく、わかりました」
「そう、それはよかったわ。警察はあきらめるの?」
「学校はどこも閉鎖社会ですが、ここは特にそうです。加えて権力もある。財政界への影響力
も強く、それはつまり警察機関への圧力もかけられるということです。この認識に誤りは?」
「ないわ」
「なら、私が何をしても無意味でしょう」
「その通りよ。賢くて助かるわ」
小さくかぶりを振って、文月は重く、深く、長い息を吐いた。全身にたまった疲労を吐き出す
ようなため息だった。
「それでは、失礼します」
「ええ。適当に、がんばってちょうだい。エスカレートしすぎないようにはするわよ」
「……」
応えず、文月は学長室を辞した。
同時に、校内放送で重厚なクラシックが響きだす。ホームルームの開始だ。このままでは遅
刻になってしまう。……だが、文月は急ぐ気にはなれなかった。
「ありえませんよ、か……伊勢宮さんの行動が、問題になるはずがない、と……」
ふらふらと赤い絨毯の上を歩き出す。ホームルームは既にはじまっている。廊下には誰もい
ない。学長室のあるこの廊下は、一般教室がひとつもないのだ。
「ふ……」
歩みが遅くなる。どうせもう遅刻は確定だ。ホームルーム程度、出なくても構うまい。
吐き気がする。文月はトイレを見つけると、個室に入って鍵をかけた。礼染女学院はトイレひ
とつとっても大きく豪華だ。完全個室で換気扇まで一室ずつについている。
肩を震わせて、文月は掌で口を覆った。こらえきれずしゃがみこんで、漏れる声を必死で抑
える。
だが、そんな抵抗も無意味だ。早朝からここまで、ほんの十数分の出来事が、頭の中をぐる
ぐると巡る。今日だけではない。これからも、ずっとこんなことが続くのだ。なんて馬鹿げたところ
だろう。
本当は、家に訴えればどうとでも出来るかもしれない。甘く見ているのは学長のほうかもしれ
ない。だが文月にそのつもりはなかった。これは彼女個人の問題だ。有瀬の家に泣きつくよう
なところではないのだ。
それに。
仮に助けを求めたとして、あの家がそれに応じるとも限らない。あそこが欲しがっているのは
優秀な経歴の娘だけだ。学院を出さえすればいい――逆に言えば、学院を中途で辞めるよう
なことがあってはならないのだ。あるいは学長も、それをわかっているのかもしれない。
最悪だ。信じられない。期待していたわけではないが、これはいくらなんでも酷すぎる。
「う……うう……ふ、う、……」
とうとう我慢しきれなくなったように、両手をだらんと垂らした。感情をおさえていられない。無
様だと知りつつ、文月は体を丸めて、
「ふ……うふはははははははははは!」
大声で笑い出した。
「は! はははは! そう! そうか! わかった! とてもよくわかった!」
立ち上がる。優雅な仕草で顔にかかる髪をはじく。個室の扉に背をつけて、換気扇の回る
天井を見据える。
「ならいい! それならいい! それならそっちに合わせようじゃないか!」
作った拳が、背後の扉を強く叩く。未だ体中で疼く痛みが、炎となって燃えている。爛々と
輝く眼をいずこともしれぬ宙に向けて、有瀬文月は誰にともなく宣言した。
「……潰してやるわ!」
有瀬文月の復讐は、こうしてはじまった。
んじゃ続き書いてくる。
すごく上手いな!
続き期待してるぞ!!
相手が3人以上いるなら、1人ずつ各個に復讐していく展開だろうか?w
最初は最も気弱そうな女から、そいつを手なづけて次の女、
最後が気の強い女を今度がこっちで集団で、と。
何気なく読み始めたけど予想以上に巧かった、GJ!
これから3人が絶望のズン底に叩き落されるのが楽しみだ
これだけ丁寧な文章だと時間掛かりそうだけど、続き待ってます
>>127
それくらいやり過ぎな方が面白そう
続き期待してる
子供ができないんじゃ令嬢としての価値もかなり下がるし。
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「【エロ小説・SS】超上流階級のお嬢様しかいない女子高に転入したら想像以上のイジメが待ってた・・・1発目」終わり
なんかおもろいやつやらなんやら
な、なんやこれ?
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名無しくんのそのまんまが出たぐっちょぐちょのコメント書いてけよ!
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紳士な名無しさん 2018年01月23日 06:11:20
これは面白そうだな、不屈の精神力を持ったいじめられっこの報復ほど怖いもんねぇよ。
紳士な名無しさん 2018年01月23日 10:10:50
管理人の押しに負けて読んでみたけど予想以上に面白い!
名無し 2018年01月23日 10:26:45
続き気になるわー
紳士な名無しさん 2018年01月23日 21:07:58
すごいメンタルだなw
続き楽しみ
紳士な名無しさん 2018年01月24日 13:18:28
引き込まれたよ。続きが楽しみだ。
未熟者 2018年01月25日 00:35:57
強い…うちの妹もこれくらいの精神力があれば…