エロ無しのストーリー。
ふたなりものということでここからどうエロくなるのかに期待。
■所要時間:25分 ■約16015文字
アブっぽいやつ寄ってく?
「【エロ小説・SS】ある日ヤクザ達相手に財布を盗んだ少女と出会って・・・」開始
注意 フタナリものです
「お前たちも自覚があると思うが、もうセンターまで500日も残されていない。部活に精を出し、三年の夏に引退…そっから勉強をやるという奴のほうが多いと思うが、
はっきり云ってそれは少し厳しいぞ。受験の波は既にお前らに迫っている。乗り遅れたら終わりと思え!特に受験なんか、まだまだ先だと思っている奴は!後になって、絶
対後悔するぞ」
そう云って、否命のクラスの担任は朝のHRを打ち切った。五月の半ばに入ったと云うのに、未だにゴールデンウィーク気分の覚めない輩に渇をいれたのである。
「ねぇ、沙紀さん…」
先ほどの担任の話を聞いてゴールデンウィーク気分が一気に覚めた否命が、何処か心配げな声で同じクラスである沙紀に耳打ちした。
「やっぱり、今から勉強しないとまずいのかな?私、成績悪いから推薦も貰えないし、受験勉強だって全然やってこなかったし…」
「お嬢様なら、大丈夫ですよ」
沙紀は胸を張って、自信満々に答えた。
「無理をせずに自分のペースで頑張って、才能を信じて、秘められた力を信じて、奇跡を信じて、楽観的に考えながら前に進む限り成果は無くても、希望だけは見えてきますよ」
「うん、私頑張る!」
「そうです、お嬢様!その意気です!」
「浪人する奴の常套句じゃん、それって」
隣で話を聞いていた否命の親友である、竹宮源之助は苦笑交じりに呟いた。源之助はその男のように厳つい名前で誤解を受けやすいが、れきっとした女である。
「浪人もいいじゃないですか、源之助さん。きっと毎日が日曜日ですよ」
「沙紀さん…それってむしろ、曜日の感覚が無くなるんじゃ…」
「とにかく、私は浪人なんてごめんね」
そう言って、源之助は溜息をつく。
「私も浪人はちょっと…」
「だけど、否命は成績も悪いし、受験勉強も苦手なんでしょ?」
「じっ、自分のペースで頑張って、楽観的に前に進んでいけば、きっ、きっと希望は見えるもん!」
「だから、それだと浪人するって」
「はぅぅ…」
「あらあら…そういえばお嬢様はAO入試なるものをご存知ですか?」
「AO入試?」
聞きなれない単語に否命は眼を丸くした。
「うん…」
「自己推薦方式って言って、自分で自分を推薦するの。論文と面接で入学の是非を判断するんだけど、論文は先生が書いてくれるから、実際は面接だけね」
「面接って、どういう事を聞かれるのかな?」
「自分が頑張ったこと。とりあえず、部活の事については聞かれるんじゃないの?」
「私、部活入ってない…源之助ちゃんも知ってるでしょ?」
「では、君は熱心に勉学に励んだのかね?」
源之助は腕を組み、不遜な態度で無駄にプレッシャーをかける面接官になりきって否命に迫った。
「私、成績も悪い…」
否命はビビリながらも、それに対応する。
「では、君は一体、高校生活で一体何を頑張ってきたのかね?ボランティア活動や研究活動や習い事でもしていたのかい?」
「してません…」
「本当に君は高校で何を頑張ってきたんだい?」
「え…その、とっ、とにかく頑張ってきました」
(言えない…、私が毎日頑張っていることは…誰にも)
否命は心の中で呟いた。
「とにかく頑張ってきた…か?普通に考えれば、成績も悪い、部活にも入ってない、校外活動もやってないとくれば、高校生活で頑張った事がないと思われても仕方が無いと思わないかい?」
「はぅぅ…」
「お嬢様、そういう時はこう言うんですよ。僕を普通の目で見ないで下さい!」
「では、私は君のことをどういう目で見たらいいのかね?」
そう問われれば否命は、
「その、あの…やっぱり、普通の目で」
と、答えるしか無かった。
「じゃあ、君は高校生活で頑張ったことが無い…ということでいいのかな?」
「沙紀さぁん…」
助けて…と、否命は沙紀に潤んだ瞳で訴えかけた。
「お嬢様、そんな顔をなさらないで下さい。大丈夫ですよ、こういう時は、「貴方に僕の何が分かるっていうんですか!!?」と言えばいいのです」
「面接の意味ないじゃん!」
そこで思わず源之助は沙紀につっこんだ。
「むっ、無理をせずに自分のペースで頑張って…」
「だーかーら、それだと浪人よ」
「はぅぅ…」
そんな否命と源之助のやりとりを、沙紀は何処か遠い瞳で見つめていた。
高二は既に自分の将来を選択する時期だ。その選択の一環としてある大学受験は、人生のゴールではないけど、やはり人生の関門の一つだろう。
その来たるべき関門をどう乗り越えるかを、否命と源之助は悩んでいる。それが、沙紀に時間の流れというものもひしひしと感じさせた。
この楽しい時間…、沙紀が大好きな日常はいつまでも続くはずは無い。沙紀だって、それぐらい分かっている。そして、次にまたもっと楽しい時間が待っている事も沙紀は分かっていた。
それでも、この日常が終わるのは寂しかった。
ただ、無性に寂しかった。
沙紀は理解していた。もう、日常が終わりかけている事を。この楽しい一時は終わっていく日常の中の、文字通り「一時」でしかないことを、沙紀は実感として理解していた。
「この偏安いつまで続く…」
言葉にしてみると、それは沙紀の胸によく響いた。
投下終わります
注意 フタナリものです
「えっ、これって…」
放課後…、否命は自分の下駄箱に入っていた白い封筒を持って固まっていた。その封筒は団栗の代わりにハートを持った可愛らしいリスのシールで封されている。
何が書かれているかは明白であった。
その封筒を手に否命は嬉しいやら、恥ずかしいやらで頬を真っ赤にしていた。しかし、その表情はマンザラでもなさそうである。
(こういうの書く人、本当にいたんだ…。こんな方法をとってくるなんて、書いた人はロ
マンチストなのかな?うん、きっとロマンチスト!だって、このリス可愛いぃー!!あと
で、このリスのシールを何処で買ったか聞いとかなきゃ…て、えっ…こんなシールを使うなんて…もしかしてこの手紙を書いた人って女の子…なのかな?)
否命は辺りを見回し、人がいないのを確認するとリスのシールを破かないように丁寧に封を切った。否命の人生で始めての経験に、否応なく心臓の鼓動が高まっていく。
「「突然の、手紙で驚かしてしまったと思います」」
書き出しの文句を読んで、否命は思わず乾いた笑い声を上げた。
(やっぱり、この字って女の子の字だよね。だけど、なんか、見覚えがあるような…)
「「しかしながら、私の意を伝えるには最良の方法と思いましたので、このような手紙を書いた次第です」」
(恥ずかしがり屋さん…なのかな?)
「「大変申し訳ないのですが、今日の放課後、宜しければ…」」
(呼び出し?何処だろう…?体育館裏は汚いし、屋上は閉鎖されているし…)
「「スーパーで、
ジャガイモ200グラム
人参5本、
レバー500グラム
買ってきていただけませんか?本来ならば、私が行くべきなのですが、今日は大会前につき部活が長引きそうなので、お嬢様が行って下さらないでしょうか?
浅原沙紀」」
否命は拍子が抜けて、やはり乾いた笑い声を上げた。同時に自分がからかわれた事に気づいて少し不機嫌になる。
否命は部活に入っていないが、沙紀は部活に入っている。
高校に入った時、沙紀はこれまで部活に入っていなかったのだが、幼い頃から剣道をやっ
ていた源之助に誘われて剣道部に入ったのである。その際に、勿論否命も誘われたが、否
命は自身の「ある事情」のため、源之助の誘いを断り「だったら、私も…」と断りそうになった沙紀を半ば強引に剣道部に入れたのであった。
否命の「ある事情」は、どうしても家に一人という状況でないと具合が悪いのだ。そのため、否命はどうしても一人になれる時間が欲しかったのである。
そういうわけで、否命は一人で沙紀よりも早く家に帰るのが日課になっている。
それにしても、このような手紙は心臓に悪い…と否命はもう一度、手紙を見直した。沙紀が確信犯であることは明らかであった。
っと、そこで否命は手紙の端っこに書かれてある文章に気付いた。
「「P・S 今夜はお嬢様の好きなカレーですよ♪」」
否命の頬は、既にニンマリとホッペが緩んでいた。沙紀にからかわれた不機嫌は何処へ行ったやら、否命は自然に足取りも軽く商店街へと向っていった。
という時刻なので、商店街は人のざわめきで賑わっている。しかし、その中でも一際、大
きなざわめきがあった。そのざわめきは自分のほうへ向ってくるように、大きくなっていく。否命は、なんだろう?…と、立ち止まり、後ろを振り返りざわめきを見ようとした。
その瞬間であった。
「どいて!!」
「えっ?」
否命がその声に気付いた時、否命は自分の身体に強い衝撃を感じた。否命はその声の主に弾き飛ばされる形で道端に尻餅をつく。
「悪いわね」
その声の主は早口でそういうと、後ろを振り返ることなく脱兎の如く走っていった。
どうやら、その声の主がざわめきの中心のようだった。
それから少し遅れて、二人組みの男が声の主を追うように走ってきた。
「待ちやがれ!」
「この餓鬼が!」
立ち上がった否命は、またもやその二人組に弾き飛ばされてしまった。
「悪いな」
その二人組みも、後ろを振り返ることなく先ほどの人物を追っていく。
「誰か、その餓鬼を捕まえてくれ!そいつは「スリ」だ!」
男の一人が叫んだ。
途端、ざわめきが大きくなる。
みるまに逃走する人間の前に人垣が出来上がり、もはや逃げ切れる雰囲気では無くなった。
しばらく、逃走していた人間は人垣の前をオロオロと廻っていたが、直ぐに二人組みの男に追いつかれてしまう。
前を歩いていた否命も、しばらくするとその光景に出くわした。
「さぁ、金を返して貰おうか?」
二人組みの男が、満足そうに言った。
「なんのことかしら?」
そういって、逃走していた人間は顔を上げた。その顔を見て、思わず周囲を囲んでいた野次馬の口から、おお!っと一斉に嘆声がこぼれ出る
年は丁度、否命と同じくらい・・・16、17に見える。肌は程よくうっすらと黄色がのって
おり、その背中までかかる長い髪はまるで濡れた黒檀の如く艶かしく輝いていた。それが
杏子のようにふくよかな頬と、桃のように品良く切れている顎、そして桜を含んだような朱色の唇を、一層際立たせている。
驚くほど、端正な顔立ちであった。
しかし、その少女の瞳は鳳凰のように凛としていながら、何処か濁っているような、鉛の如く鈍く光っているような、そんな汚さがあった。ただし、それを差し引いてもこの少女はこの世のものとは思えぬ美しさをたたえていた。
「とぼけるなよ、お前が俺から掏った財布のことだ!」
男の怒気を孕んだ声を受け流すように、少女はやれやれ…というように肩を竦めて見せた。少女の口元は、こんな状況に陥ったというのに薄く笑いが浮かんでいた。
「貴方が何を言っているのか分からないわ」
「俺は見たんだよ!お前が、俺の連れから財布を掏るのを…」
「貴方、それを本当に見たの?」
「だから、お前を追ったんだよ」
「そう…、それは困ったわね」
「だったら早く出しな」
「いえ、貴方を眼科に連れて行くべきか、精神科に連れて行くべきか…、この場合は、見えないものが見えたのだから、精神科のほうが適当かしら。いえ、やはりこの場合はむしろ眼科のほ…」
「この餓鬼!」
そう言って、男が少女の胸倉を掴もうとする。その男の手を、
「触らないで頂戴」
と、少女はバシッと払った。
その男の、怒りに顔を歪めた表情は凄みが浮き上がり、他を本能的に怯えさせる何かがあった。しかし、その表情を見ても、少女は薄ら笑いを止めようとしない。
「お前は、自分の立場が分かっていないようだな」
「貴方は、自分の夢と現実の境界が分かっていないようね」
「ほぅ…」
呟くよりも早く、男は少女を殴った。
周りで成り行きを見ていた野次馬が息を呑む。
「金を出すんだよ、糞餓鬼!」
「だから、知らないって言っているでしょう?」
少女の顔から笑みが消えていた。代わりに冷たい刃物のようなものが、その顔に張り付いている。男も殴っても尚、口を割ろうとしない少女に苛立ちを募らせていく。
男と少女の間に窒息しそうな沈黙が流れていた。
「何やっているんですか!?」
その沈黙は、駆けつけてきた警官によって破られた。野次馬の誰かが通報したらしかった。
「どうしたんですか?」
警官が問うた。
「どうもこうもねぇ、この餓鬼が…」
「そこの男が!!!!」
言いかけた男の声を遮るように、少女は大声を出した。その大声に周りが水を打ったように静かになる。それを確認すると、少女は警官に向き直って言った。
「突然、奇声を上げたと思った次の瞬間には私に襲い掛かってきたの。そして、私が逃げたら追いかけてきた挙句に、私をスリといって詰ったのよ」
「この野郎、シャアシャアとぬかしやがって!」
「違う?」
「お前が、実際に俺の財布を盗んだ事がな!」
「丁度いいわ。お巡りさん、私のポケットの中を調べてくれる?」
「なっ…!?」
その言葉に男は少女の魂胆が分からず怪訝な顔をしたが、そう言われれば引き下がるほかなかった。
少女と男の会話で、事情を察した警官は、
「では、失礼します」
と言って、少女の前にしゃがみこんだ。
「しっかり、調べて頂戴」
少女の顔には再び、不敵な笑みが浮かんでいた。
警官は、少女の脇の下に手を入れると、ポンポンと少女の身体を叩きながら手を下ろしていく。別に、何も異変は無かった。
次に警官は少女に、ポケットをひっくり返すよう要求した。少女がポケットをひっくり返すと、そこから黒い財布が出てきた。
「これが…?」
男は無言で頭を振った。
そして、少女のポケットからはそれ以外のものは出てこなかった。少女は自分のシャツも捲ってみせる。やはりそこには何も無い。
「糞ッ!」
血を吐くように男が叫ぶ。
「盗まれたのは…?」
「盗んでいないわ」
少女が苦笑交じりに言う。
「財布だよ」
男が悔しげに言った。
その男と少女の会話を聞いて、警官は焦れたように言った。
「どうですか、一旦、交番までいって双方の話を…」
「「「交番」!!?」」」
その警官の提案を聞いた二人組みの男と少女の声が重なる。三人の表情は呆れる程、豹変していた。少女の顔からは笑みが消えうせ、男の顔からは凄みが消える。三人の目にはいずれも怯えの色が浮かんでいた。
「疑いが晴れたんだから、もう私から話すことなんてないわ」
「俺達も、金が掏られたぐらいで交番にいくほど暇じゃねぇんだよ」
「ああ、そういうこった。悪かったな、糞餓鬼…、俺の目が悪くてよ」
「耳も遠いのでしょう?」
「あっ?」
「だって、私が「やっていない」って言ったのが聞こえなかったものね」
「そうだよ!悪かったな耳も遠くて…」
「顔も汚くて…」
「顔も汚くて…」
「口も臭くて…」
「口も臭く…、こいつッ!舐めてるのかッ!!」
そういって少女を殴ろうとする男を、別の男が目で「止せ!」と合図する。
憤る男達を尻目に少女は悠々と、その場を離れていった。
気のせいかな?…と否命は自分に言い聞かせ、帰路を急いだ。
(はぁ、それにしてもすっかり遅くなっちゃった。早く家に帰って「アレ」をしないと沙紀さんが帰ってきちゃう。うん、そうだ、今日は近道を通ろう)
否命は不意に商店街を出ると、大通りを曲がり裏路地を通っていった。普段否命は、裏路地は汚いので通らないのだが、やはり時間は惜しかった。
っと、不意に否命は裏路地の半ばで違和感の原因に気がついた。自分の制服のポケットが異様に膨らんでいるのである。ポケットに入っているものはよっぽど分厚いらしく、その長方形の輪郭が布地越しにくっきりと浮かび上がっていた。
否命は恐る恐る、ポケットの中身を取り出しみた。
否命のポケットから出てきたのは、万札で今にもはちきれんばかりの茶色い札入れであった。
突如、否命の脳裏に少女が自分にぶつかってきた時の映像が流れる。
「これって…」
「そう、「私の」財布よ」
否命の振り向いた先には、あの少女がニッコリと笑って立っていた。
投下終わります
投下します 注意 フタナリものです
否命はその少女の笑顔に、鼓動の高鳴りを覚えていた。その少女の笑顔は深山に咲いた一輪の華の如き幽玄の美を持って、否命の心臓にまで迫る。
しかし少女の顔は圧倒的美を誇りながらも、瞳がその美を何処か歪なものに変えていた。まるで悠久の自然が作り上げた光景を、愚かな神が手を加えてしまったが故に、その無為の輝きを壊してしまったかのような…一言で言えば「不自然さ」があった。
「聞こえなかったの?財布よ」
その声に否命は現実に引き戻され、慌てて自分が手に持っているものを確認する。
「財布って……これのことだよね?」
少女は頷いた。
「そう、それよ。返して頂戴」
「返すって……あの男の人達に返すんだよね?」
「面白い子ね…」
言って、少女はスッと否命と顔が触れ合いそうな位置まで足を進めた。
「なッ、何?」
戸惑う否命に、少女は更に自分の顔を近づけるとニィーっと笑った。否命もつられて、口元がニィーっと歪む。
次の瞬間、少女は否命の額を指で弾いた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
声にならぬ悲鳴をあげ、否命は地面に蹲った。
少女のした行為は所謂デコピンというやつであった。それは単純に指で額を弾くという、暴行とは言えぬ、ある種の「戯れ」であるが、否命はそれによって額が爆発したような痛みに襲われていた。
分かる筈ない。否命は地面に蹲ったまま、首を横に振った。
「さぁ、私に財布を…」
「駄目・・・だよ。それは、あの男の人のだから…、ちゃんと…返さないと」
「もう、返して済む問題じゃないんだよ、お嬢さん方」
その声に二人が振り向いた先には例の男二人組みと、その二人組みの仲間と思われる、これまた堅気の風体とは思えない一人の男が立っていた。
少女は咄嗟に逃げようとしたが、いつのまにかもう二人別の男が少女の前に回りこんでいた。
「チッ!」
計5人の男に囲まれ、少女は思わず舌打ちをする。しかし、それでいながら少女の顔はあくまで涼しげなままであった。
「さっ、俺の金を返して貰おうか。お嬢さん」
先ほどの事件がよほど金を盗まれた男にとって屈辱だったらしい。少女を追い詰めた男は嬉しくて、嬉しくてたまらない様である。
「もう、返して済む問題じゃないのでしょう?貴方の頭には、実は真っ赤なトサカが生えているようね」
「相変わらずの減らず口で…」
「貴方も相変わらずの臭い口で…」
少女の態度に男は苦笑を漏らす。余裕の笑みであった。
「で、そっちのお嬢さんは?」
「そう、私の「仲間」よ」
「ほぅ…」
「貴方たちは、運がいいわね。丁度今、「仲間」割れを起こしていたところよ」
「それは、それは」
そう言って、男は否命のほうに顔を向ける。
「成るほど。そいつが俺から盗んだ財布を、あんたが預かるっていう寸法だったんだな」
否命はしばらく、自分が何を言われているのか分からなかった。この状況に頭が追いついていないのだ。否命はこの男が自分に向けてくるプレッシャーに、ただ怯えていた。
「どうなんだ!えっ、そこの餓鬼とグルなんだろ!?」
「えっ?」
「その餓鬼と二人して、俺を嵌めやがったな!」
「………、ちっ、違ッ、違いまっ、わッ、わッ、私は…そッ、その…あのの…」
緊張からか、否命の口調は滑稽な程たどたどしい。ここで動揺したり、焦ったりしたら、この男達に怪しまれるのではないか…そんな思いが逆に否命の口を不自由にしていた。
「私は…ポポポ、ポケッ、ケトに、その…さっ、財布を、いいい、入れられただけで…」
「哀しいわ。所詮、悪党同士の結びつきなんてこんなものだったのね」
否命とは違い、少女は声も顔も平常そのものであった。
少女はたとえ、否命のようなひ弱な女の子であっても、利用できるものは全て利用するつもりらしい。
しかし、その少女に目を付けられた否命は…。
「小便ちびりそうな顔しているぜ、嬢さん」
「漏らしちまいな。嬢ちゃんのなら、呑んでやるぜ」
口々に勝手な事をいいながら、前方の男は懐からナイフを取り出した。それは刃を折りたためば掌に収まるほどの大きさであった。不必要に殺さずに、相手を傷つけることを目的
としたものである。
少女は咄嗟に後方を振り向く。たとえ相手が三人でも、ナイフを持っていないのならば、逃げ道は後方にしようという魂胆である。
だが、後方の二人も懐から同様にナイフを取り出した。前方の三人と同じく、ナイフそのものは小さい。
「使うよ…、お嬢さん方」
最後に、少女に金を盗まれた男は懐から大きな登山ナイフを取り出した。
「最後通告だ。俺達にさんざんいたぶられた末に財布を渡すのと、財布を渡した後にいたぶられるのと、どっちがいい」
否命は力の限り首を横に振った。
哺乳類は刃物の光沢を見ると、本能的に恐怖する。それは本能的な故に例外のない事実である。しかし、少女の顔には未だに怯えの色はなかった。
恐らく、胆力で恐怖を顔に出さないようにしているのだろう…と男達は、少女の胆力に意外にも感心してしまった。
「なかなか、立派な面構えしてるな。だが、虚勢を張るだけで…」
「警察…」
少女がボソッと呟く。
「あっ?」
「集団で囲み、脅迫し、挙句に刃物…、もう警察は呼べないわね」
「ほぅ…」
前方の三人の内の一人が小さなナイフをちらつかせながら、少女に掴みかかる。
「触らないで頂戴」
っと、少女はその男の手をバシッと払いのけた。
叫ぶと同時に、男は少女の腹部を殴る。恐らく男は殴りなれているのだろう…男の拳はものの見事に少女の鳩尾に入っていた。
「~~~~~~~~~!」
少女は腹部を押さえ、息を吸おうと口を死に掛けの金魚の如くパクパクと動かす。だが、激痛のあまり少女は息を吸えず、苦悶の表情を浮かべながら倒れるほうに男に近づいていった。遠目でも分かるほど、足元がふらついている。
「もう一発だ」
再び、少女の鳩尾に男の拳が抉りこまれた。少女の瞳の焦点が合わなくなっていく。少女は自分を殴った男に何かを求めるように、男の裾を掴んだ。
「さっきまでの威勢はどうしたのかな?」
と、男の口から嗜虐の笑みがこぼれた。同時に、周りで事の成り行きを見守っていた男達が一斉にその少女の無様な姿を見て笑い声を上げる。
っと、次の瞬間であった。
少女を殴った男の顔にベチャッと、何かが張り付いた。男はその物体に視界を遮られて、慌ててその物体を両手で払い落とそうとする。だが、ナイフを持った右手の手首は少女に捕まれ止まってしまった。
男の力ならば、少女の手を振り払うことは十分可能である。だが、視界を塞がれた男にとって自分の右手が動かない事態は、実際以上の脅威を持って男に迫った。咄嗟の事態で、男は軽く混乱しているのだ。
「こいつ…ゲロ吐きやがった」
誰かが呆然と呟いた。
その言葉が合図であったように、男の鼻孔に甘酸っぱいゲロ独特の匂いが広がる。そして、ようやく男は自分が顔にゲロを吐きかけられた事を理解した。
「こいつッ!!」
怒りに駆られ、男は全霊で持って少女を殴ろうとする。しかし、男は少女に右手首を掴まれているせいか、視界がゲロによって遮られているせいか、勢い余って体勢を崩しそのまま地面に倒れてしまった。
ぺきん!
という、枯れ枝を折るような音がした。
その音に、周りの全ての人間が呼吸を止める。男の顔はゲロにまみれても尚分かるほど、苦悶に顔を歪ませていた。
男の手首から先が消えていた。
切れたのではない。
男の右手は綺麗なアーチを描くように内側に折れ曲がっていた。掌が腕の腹にピッタリと張り付いている。何処か、冗談じみた奇妙な光景であった。
男は倒れたまま、地面を転がる。
視界の遮られていた男には分からなかったが、男が少女を殴ろうとした時、少女は男の足
を払っていたのである。そして男が倒れるのと合わせるように、握っていた男の右手首を
内側に折り曲げたのだ。結果、男の手首は自分の体重分の衝撃を受け、ありえないぐらいに曲がってしまっていた。
確信犯であった。
少女は倒れた男の手からナイフを捥ぎ取ると、それを持って財布を盗すまれた男のほうへ近づいていく。
「おぃおぃ、俺達とやろうっていうのかい?」
男達は心臓が飛び出るほど驚いたものの、戦闘意欲を失うような人種ではなかった。既に、
咄嗟の事態に頭が追いついているらしく、ナイフを片手に少女を威嚇する。
しかし、少女はそれでも顔色一つ変えることなく無言で財布を盗まれた男に迫った。
「そんなチッポケなもので、これとやりあうってか?」
男は自分の大きな登山ナイフを振り回しながら、少女の持っている小さいナイフを笑う。
「………」
少女は既に財布を盗まれた男の眼前まで来ていた。その少女の首筋に財布を盗まれた男は、
登山ナイフをあてる。ツゥーっと、少女の首筋から赤い血が細く流れた。少女はそこで動きを止める。
「餓鬼、もう歩いて帰れな…」
次の瞬間、なんの躊躇いもなく、少女は財布を盗まれた男の顔をナイフで切りつけた。
周りが水を打ったように静かになる。それから、一拍おいて男の顔から血が噴出した。
「これで、トサカの生えている貴方の汚い顔も大分マシになったわ」
いつも変わらない調子で、いつもと変わらない顔で少女は言った。
それでも、この男は戦意を失うことも、取り乱すことも無く、少女に登山ナイフを振るおうとする。
だが、財布を盗まれた男が少女にナ登山イフを振るうよりも早く、少女は男の登山ナイフを持っている右手の甲をナイフで突き刺していた。
「~~~ッ!」
思わず、財布を盗まれた男は登山ナイフを取り落としてしまう。その登山ナイフを少女は驚くほどの素早さで拾い上げた。
「お前ッ、アアアアアアアアアアア!!」
男の顔が驚愕で見開かれる。少女は、まるでマウンドに立つピッチャーの如くその大きな登山ナイフを大きく振りかぶっていた。
脳天から顎まで一直線。まさか…と思う財布を盗まれた男の脳裏に、自分の頭が西瓜の如
く真っ二つになっている光景と、直前の何の躊躇いもなく自分の顔を切りつけた少女の顔が浮かんだ。
「ヒィッ…」
流石の男も限界であった。恥も外聞も無く、財布を盗まれた男は両手で頭をガードした。
少女の登山ナイフが半円を描いて男に迫る。
「―――――――――!!!!」
少女の登山ナイフは男の両手ギリギリのところで止まっていた。
目を閉じていた男は、自分が無事なのを確認すると安堵のあまり地面にヘナヘナと座り込
んだ。その男の股間を少女は蹴飛した。「ウッ」と短い呻き声を発して財布を盗んだ男はとうとう気絶する。
あまりの事に、少女の回りで声を発するものは誰もいなかった。
静寂を破るように少女が呟く。
「聞こえなかったの?クリーニング代よ」
「えっ?」
前方の三人組の残った一人に少女は声を掛けた。男はあまりの事に目を白黒させている。
「貴方達が汚したのよ。クリーニング代出してくれるわよね?」
そういって、少女は自分のシャツを摘んでみせる。
「あっ…ああ、はい」
男は少女の上着が返り血で紅くなっているのを見ると、これまた分厚い財布から一万円札を一枚取り出し少女に渡した。
「………」
少女は無言で男の手から財布をかっぱらうと、その中に入っていた札束を無造作に掴
み取る。その札束をポケットにしまうと、少女は半ば放心している男に薄くなった財布を投げて返した。
「それと、上着も貸して頂戴。このままじゃ、家に帰れないわ」
後ろで呆然としていた二人組みと、前方の残った一人が無言で目を交わす。そして、後方の男の一人が自分の上着を脱いで少女に渡した。
否命はもはや気が動転して歩くこともままなかなかったが、それでもフラフラと帰路を急ぐ。しばらくは何も考えられそうになかった。
「ありがとう。じゃあ私はこれで失礼するわ。あと、救急車ぐらい呼んであげなさい」
そういって、少女は否命の後を追った。
少女はまだ、否命に財布を渡したままであった。
投下終わります
注意 ふたなりものです
「ねぇ、貴方…」
「財布、返して頂戴」
「聞こえないの?」
「大丈夫?」
「も~し、も~し?」
「………」
「ねぇ…、財布」
「………」
「私の…」
「ここって貴方の家?」
「ねぇ…」
「………」
「………」
「………」
「貴方…、犯し殺すわよ!!?」
幽鬼の如き足取りで否命は家に帰った。
「ただいま」
ドアを開け、声を掛けても応える人はいない。否命の唯一の同居人である沙紀は、部活で否命より遅く帰るのだ。
否命は明かりの付いていない暗い家の玄関を見ながら、いつから「おかえりなさい」と言ってくれる人がいなくなったのかが、唐突に頭に浮かんだ。
それからお姉ちゃんが死んで親戚の家に引き取られたが、ここでも否命は「おかえりなさ
い」と言われることは無かった。否命は、どうしてもここが(親戚の家)自分の家だとい
う気になれず「ただいま」と言う事に抵抗があったのだ。勿論、幼いながら否命は自分は
これからずっとこの家で暮らす事になるのが分かっている。だから、否命は最初に親戚の
家に来た時、否命は咄嗟に「ただいま」と言おうとした。しかし、やはり否命の目に飛び
込んできたのは「知らない道」「知らない門」「知らない庭」「知らない玄関」そして「
知らない人達」であり、否命はここが自分の家と理解する反面、ここを自分の家と思っていいのかな…という遠慮にも似た感情が、「新しい家族」を見れば見るほど湧きあがっていく…。
結局、否命は無言で新しい母親に連れられて家に入った。
それからも否命はこの家のドアをくぐる度にあの感情が湧きあがり、否命は目を伏せ背を縮め、無言で家に入っていった。
この行動に否命の親戚が気まずい思いをしないはずはない。しかし、それでも親戚の人達は大人であり、それによって否命自身が一番気まずい思いをしているのを分かっていたので、それを理由に否命を疎んだりはしなかった。
否命が親戚の家から再び使用人を付けられて、自分の家に戻されたのは別の理由があっての事である。
その頃は、使用人が沙紀と一緒に幼稚園から帰る度に「おかえりなさい」と優しく声を掛けてくれたし、人見知りの激しい否命も沙紀につられて「ただいま」と言う事が出来た。
その新しい環境に否命がすっかり馴染んだ時だった。
ある日、使用人が何の前触れもなく忽然と姿を消したのだ。否命が13才、沙紀は14才の誕生日を迎えたばかりの時である。
その日、否命は泣かなかった。自分に優しくしてくれて、10年近く世話をして貰った、言わば母親代わりのような人間がいなくなって哀しくないはずがない。ただ、否命はあまりに突然の事で実感が湧かなかったのである。
使用人が居なくなった事実は理解している。しかし否命はその事実が現実であると分かってはいても理解する事は出来なかったのだ。使用人が消えたのが、本当に唐突過ぎて…。
それから三日後、否命が沙紀と一緒に中学から家に帰ってきた時であった。
いつものように否命は帰宅の挨拶をした。それからしばらくして、否命はその場で固まってしまった…。
「どうしたのですか?お嬢様…」
怪訝そうな顔で沙紀は否命の呆けた顔を覗きこむ。それでも否命は、口をポカンと開けたまま目を何処か遠くにやっていた。
「お・じょ・う・さ・ま」
少し強い口調で呼ばれ、否命は下から顔を覗き込んでいた沙紀と目が合い、ようやく否命は意識を取り戻した。
「お嬢様、どうなさられたのですか?」
「何かが足りない気がするの…」
明かりのついていないくらい玄関で否命はポツリと呟いた。
「………お嬢様?」
「そっか、そうだよね…ごめんなさい、沙紀さん。なんか、「おかえり」っていう声が聞こえそうな気がして」
言って、否命は泣き出した。
否命はようやく気付いたのだ、もう「おかえり」という声が聞こえるはずはない。そして明日も明後日も明々後日も「おかえり」という声は聞こえない。それを理解した否命の目から涙が留め止めもなく溢れてきた。使用人が消えてから初めて見せる涙であった。
泣きじゃくる否命を沙紀はその場でしばらく見守っていたが、やがて腰を屈めて否命と視線を合わせるとニッコリと笑って言った。
「お嬢様…、変顔選手権に出場されるおつもりですか?」
「さっ、沙紀さん!!なにもこんな時…」
否命は顔を耳まで真っ赤にして沙紀を怒ろうとしたものの、どうしても口が緩んでしまい、とうとう吹きだしてしまった。
「やっぱり、お嬢様は泣き顔より笑っている顔のほうが似合いますよ」
「………」
「フフフ…照れてます?というか照れて下さい…、正直に申しますと私は今、とてもいたたまれない気持なのですから」
そういって沙紀も顔を真っ赤にする。
「もぅ、沙紀さん、臭すぎるよ」
否命と沙紀はそこで顔を見合わせると再び笑いあった。そして沙紀は、玄関の明かりを付けると否命の前に立って言った。
「おかえりなさいませ…、お嬢様」
否命の胸に、ほんのりと暖かい何かが宿る。否命はさっきまでの沈んだ気分が嘘みたいに、
無くなっているのに気付いた。否命はきっと今、自分は笑っているんだろうと思った。幸せそうに、楽しそうに…、
でも何故か否命は自分が涙を流している事に気づいた。
あれっ?っと思う間も無く、否命の口から同時に泣き声が飛び出す。
否命は泣いた。なんで泣いているのか自分でもよく分からなかったが、とにかく泣いた。
涙が泣いても泣いても尽きること無く流れ出てきた。その否命を沙紀がそっと胸元に抱き
寄せる。するとより一層、否命は激しく泣いてしまった。沙紀の背をがっちりと抱き、沙紀の制服を涙と鼻水で汚しながらたっぷり10分間、否命は泣いた。
それから沙紀は自宅に帰ると必ず否命より先に電気を付けて、「おかえりなさいませ、お嬢様」と否命を迎えるようになった。
その度に否命はホッとするような、肩の力が抜けるような、そんな気持になり「ただいま」と自然に口に出せるのだ。
しかし、否命は高校に入学するのをきっかけに沙紀を半ば強制的に部活にいれ、自分が沙紀より早く家につくようにした。当然、帰宅の挨拶は無い。
否命はどうして家で一人の時間が欲しかったのだ。
そこまで考えたとき否命はようやく白昼夢から覚め、慌てて玄関に立てかけてある時計を確認した。
あの少女と関わってしまったせいで、時計は17:30を指している。否命は慌てて玄関
の鍵を閉め、防犯ブザーのスイッチを入れた。この防犯ブザーはドアが開くと騒音が鳴り響くタイプである。
確かに、女二人だけの生活であるから防犯するに越したことはない。だが、否命が防犯ブザーを設置したのは防犯のためでは無かった。これから始まる毎日の日課のために取り付けたのである。
否命はちゃんと防犯ブザーにスイッチが入っているのを確認すると、靴を脱ぎリビングへ向って駆けていった。
リビングには沙紀と共有しているPCがある。
否命はそのパソコンの前に置いてある回転椅子に腰を下ろすと、直ぐにパソコンのスイッチを入れた。
投下終わります
「【エロ小説・SS】ある日ヤクザ達相手に財布を盗んだ少女と出会って・・・」終わり
なんかおもろいやつやらなんやら
な、なんやこれ?
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